NAD+が更年期ケアの常識をも変える?──米国バイオテック企業が挑む「生殖機能の抗老化」

──長寿研究の主役「NAD+」と女性の健康がついに交わる
海外の最先端ロンジェビティ(長寿)トレンドをお届けする「ロンジェビティニュース」。
今回は、これまで別々の文脈で語られてきた2つの世界が交差し、新たな可能性を開き始めたという非常にワクワクするニュースをご紹介します。
世界的な長寿ビジネス専門メディア『Longevity.Technology』が2026年7月17日に報じたところによると、米国に本拠を置き、科学的根拠に基づいた抗老化サプリメントを手掛けるバイオテック企業エリジウム・ヘルス(Elysium Health)社が、驚くべき予備研究の結果を発表しました。
体内の補酵素である「NAD+」を高める同社の代表的なサプリメント「Basis(ベイシス)」が、抗老化や細胞のエネルギー維持だけでなく、女性の更年期に伴うさまざまな不快な症状を和らげる可能性が示されたのです。
NAD+は、体内の若々しさやエネルギー産生、DNA修復に不可欠な成分として、長寿科学において最も注目されている分子の一つです。一方、更年期のケアはこれまで、ホルモン補充療法や症状を直接和らげる対症療法を中心に語られてきました。
長寿の切り札である「NAD+」と、多くの女性が直面する「更年期障害」。この2つを結びつける最新研究の裏側と、最先端科学がもたらす未来の選択肢について分かりやすく紐解いていきます。
補酵素NAD+と注目のサプリメント「Basis(ベイシス)」とは
──細胞の若さを支える「NAD+」という重要な補酵素
今回の研究を理解するうえで欠かせないのが、細胞レベルのエイジングケアを支える「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」という補酵素です。
NAD+は私たちの体内でエネルギーを作り出し、傷ついたDNAを修復するために不可欠な存在ですが、悲しいことに加齢とともに急速に減少してしまう性質を持っています。
この低下するNAD+を効率よく体内で増やし、細胞の若返りをサポートするために開発されたのが、米国のクロマデックス(ChromaDex)社が開発し、同社の元CEOやノーベル賞受賞者らが設立したバイオテック企業エリジウム・ヘルス(Elysium Health)社から販売されている代表的なNRPT製品「Basis(ベイシス)」です。
2つの成分が支える「Basis」の仕組み
Basisの最大の特徴は、相乗効果を生み出す2つの強力な成分の組み合わせにあります。
ひとつは、体内で若々しさと健康維持に深く関わるNAD+に変換される前駆体成分「ニコチンアミドリボシド(NR)」。そしてもうひとつが、ブルーベリーなどに豊富に含まれる成分で、ポリフェノールの一種であり抗老化成分として有名なレスベラトロールの仲間である「プテロスチルベン(PT)」です。
プテロスチルベンは、レスベラトロールと比べて体内への吸収率や滞留時間が優れているとされ、長寿遺伝子とも呼ばれる「サーチュイン遺伝子」を活性化させ、強い抗酸化作用を高める働きがあると言われています。
これら2つの成分がタッグを組むことで、ミトコンドリアの働きを支えて細胞のエネルギーレベルを底上げし、疲労軽減やエイジングケア、さらには代謝機能の改善まで、多角的な健康効果が期待されています。
細胞のエネルギー代謝が女性の健康にもつながる可能性
そして今回、この「細胞のエンジン」を動かすようなサプリメントが、女性ホルモンの変化という繊細な領域にまで良い影響をもたらす可能性が浮き彫りになったのです。
参考記事:“美しさはホルモンでつくられる? エストロゲンと抗老化の関係とは
わずか7日間で見えた変化と、女性ホルモン(エストロゲン)のバランス
──わずか1週間で確認された症状改善の可能性
専門誌『Frontiers in Aging』に掲載された今回のパイロット研究では、35歳以上の女性40人を対象に調査が行われました。
その結果、更年期の症状を感じていた女性たちが「Basis」を毎日服用したところ、わずか7日後にはほてりや睡眠障害、お腹の張りといった辛い症状の頻度や重症度が半分以下に減少したと報告されました。
通常、サプリメントによる変化を体感するには数ヶ月単位の時間がかかると言われる中で、1週間という短期間で明確な変化が見られたことは、研究者たちにとっても大きな驚きでした。
女性ホルモンのバランスにも変化が見られた
さらに研究チームを惹きつけたのは、参加者の感覚的な変化だけでなく、体内における「ホルモンの質的な変化」です。
女性ホルモンとして知られるエストロゲンは単一の物質ではなく、主に作用が強く若々しさを支える「エストラジオール(E2)」と、作用が穏やかで閉経後に優位になる「エストロン(E1)」という異なる種類が存在します。
女性の体内ではこれらがバランスを取り合っていますが、更年期に入ると活性の高いE2が急激に減少し、相対的にE1が増えることでホルモンの黄金比率が大きく崩れてしまいます。
これが、心身の不調を引き起こす大きな原因の一つと考えられています。
今回の研究では、Basisの摂取によってこの「E2とE1の比率(E2/E1比)」が上昇し、より健全な若い頃のバランスへと近づいていることが確認されました。
細胞レベルの介入が更年期ケアを変える可能性
代謝や細胞修復を促すNAD+を補うことが、結果として女性ホルモンの健やかな調和を取り戻すサポートになっているというこの発見は、更年期ケアにおける全く新しいアプローチとして高い期待を集めています。
「NAD+の補給」から「細胞内メカニズムの解明」へ
──新たに見つかった「NAD+代謝物」が示す次の研究課題
今回の研究には、長寿科学の未来を占うもう一つの重要な発見が含まれていました。
それは、これまで報告されていなかった新たな「NAD+の代謝物(体内で変化した物質)」が見つかったことです。
これまで長年にわたり、科学者たちの主な関心は「体内のNAD+濃度をいかに高く引き上げるか」という点に集中していました。
NAD+は、体内のあらゆる細胞でエネルギーを生み出し、傷ついたDNAなどのダメージを正確に修復するために欠かせない必須の補酵素です。
そのため、加齢とともに減ってしまうNAD+をサプリメントなどで効率よく補給し、細胞の基本的な修復機能や活力レベルを低下させないことが、抗老化研究における第一のゴールとされてきました。
しかし今回の発見によって、研究の潮流はさらにその奥にある「次のステージ」へと進化しました。
ただNAD+の量を補うだけでなく、「補給されたNAD+が体内でどのように分解・変化し、どのようなルートを通って女性ホルモンや各種細胞に影響を与えているのか」という、細胞内部の精密なメカニズムそのものの解明へとシフトしたのです。
代謝メカニズムの解明が次世代医療につながる
体内で作られた新たなNAD+代謝物が、更年期におけるホルモンバランスの調整にどのように関わっているのか。
その具体的な働きやルートが解明されれば、単に全体的なNAD+量を増やすだけでなく、狙った身体機能やトラブルに対してピンポイントでアプローチする、より精度の高い長寿医療やサプリメントの開発へとつながっていきます。
女性の生殖機能も長寿科学の重要テーマへ
今回の研究発表と同時に、エリジウム・ヘルス社は生殖機能の老化研究におけるトップ権威であるユウシン・スー博士を諮問委員会に迎えました。
これは、これまで長寿産業において後回しにされがちだった「女性の生殖機能の老化」というテーマが、今や長寿科学の最前線として本格的に位置づけられたことを物語っています。
まとめ
──ホルモンに頼らない新しい選択肢と、自分らしい生き方への投資
エリジウム・ヘルス社による今回の研究は、まだ小規模な予備試験段階であり、今後より大規模な臨床試験での検証が必要とされています。
しかし、このニュースが私たちに与えてくれた示唆はきわめて大きなものです。
更年期は、多くの女性が人生の途中で経験する自然な生物学的変化です。しかしこれまでは、「年齢のせいだから我慢する」か「ホルモン補充療法などの直接的な治療を受ける」という極端な選択肢に直面しがちでした。
もし、ホルモンを直接投与するのではなく、細胞のエネルギー代謝を高めるという根本的なアプローチ(非ホルモン療法)によって身体のバランスを整えられるとしたら、それは女性たちにとって優しく、力強い新たな選択肢となります。
更年期を単なる症状のトラブルとして捉えるのではなく、身体全体の老化プロセスの一環として捉え、科学の力でしなやかに整えていく。
これこそが、これからの時代に求められるロンジェビティのあり方です。
自分の身体の中で起きている変化を正しく知り、細胞のレベルから寄り添うケアを選んでいくこと。
それは、人生のどんなステージにおいても活力と自分らしさを失わず、輝き続けるための大切な未来への投資です。
最新の科学がもたらす希望を味方に付けながら、今日からのライフスタイルをより豊かで心地よいものへと整えていきましょう。
参照元
longevity.technology:Elysium Health links NAD+ to menopause in new study
https://longevity.technology/news/elysium-health-links-nad-to-menopause-in-new-study/
Nicotinamide riboside and pterostilbene reduces frequency and severity of undesirable symptoms of the menopause transition: an open-label, pilot clinical trial
https://www.frontiersin.org/journals/aging/articles/10.3389/fragi.2026.1773667/full
Elysium Health™ Research Demonstrates Improvements in Menopause Symptoms and Estrogen Balance with Basis™ and Reveals New Insights into NAD+ Metabolism
https://www.prnewswire.com/news-releases/elysium-health-research-demonstrates-improvements-in-menopause-symptoms-and-estrogen-balance-with-basis-and-reveals-new-insights-into-nad-metabolism-302821437.html
この記事を書いた人
1978年生まれ、京都府出身。看護師として京都市内の病院に8年間勤務後、上京。東京都内の総合病院にてICU(集中治療室)、NICU(新生児集中治療室)、手術室での高度急性期医療に従事。看護師プリセプターとして後進の育成にも尽力する。
臨床現場での経験から、既存の制度では対応困難なニーズを痛感し、24時間対応保育所や自費訪問看護ステーションを自ら立ち上げた起業家としての側面も持つ。
現在は、訪問看護の発展を支援する総合Webメディア「いろいろナース」および、抗老化とロンジェビティ(長寿科学)の実践をガイドする「こもれび抗老化ステーション」の編集長を務める。医療現場のリアルな知見と最新のロンジェビティ理論を融合させ、日本人の健康寿命延伸に寄与する情報発信を行っている。

