福利厚生の優先順位が変化──「休暇」から「医療アクセス」へ

労働者が福利厚生を再考

福利厚生の優先順位が変化──「休暇」から「医療アクセス」へ

──「休暇」より「医療へのアクセス」が選ばれる時代へ

いま、働く人の価値観に明確な変化が起きています。

英国の最新調査によると、労働者の60%が「有給休暇の増加」よりも「医療へのアクセス」を重視していることが明らかになりました。これは、遠隔医療や運動プラットフォームを提供するMyHealthPalの分析によるものです。

比較すると、その差は明確です。

  • 医療へのアクセス(民間医療保険など):60%
  • 有給休暇の増加:41%
  • 生命保険:37%

かつては「どれだけ休めるか」が働く上での大きな魅力でした。しかし今は、「必要なときに診てもらえるかどうか」が、それ以上の価値を持ち始めています。

医療の課題は“質”ではなく“たどり着けるか”

この変化の本質は、単なる健康志向の高まりではありません。

背景にあるのは、「医療にアクセスできるかどうか」という現実的な不安です。

現在、英国では成人の7人に1人が「医療を受けられるか不安で眠れない」と回答しています。

さらに、適切な期間内に治療を受けられると確信している人はわずか32%にとどまります。

精神医療や定期検査に関しては、さらに低い水準です。

医療の質そのものよりも、「いつ受けられるか」という不確実性が、人々のストレスの源になっています。

遅れる医療、連鎖する“待ち時間”

この問題は、医療提供体制の構造とも深く関係しています。

英国では、一般開業医(GP)1人あたりが担当する患者数は平均約2,200人

その結果、初診の予約ですら容易ではなくなっています。

そして重要なのは、この「最初の遅れ」がすべてを遅らせることです。

初診が遅れる
→ 検査が遅れる
→ 診断が遅れる
→ 治療が遅れる

この連鎖により、医療は“受けられるもの”から“待つもの”へと変わってしまっています。

人々は「時間を買う」ようになった

こうした状況の中で、人々の行動はすでに変わり始めています。

英国では、パンデミック以降、自己負担による医療支出が24%増加し、約620億ドル規模に拡大しました。さらに、民間医療の利用率はわずか2年で9%から16%へとほぼ倍増しています。

その理由はシンプルです。

民間医療を利用する人の約40%が「待ち時間を避けるため」と回答しています。

つまり人々は今、「より良い医療」ではなく、「より早く受けられる医療」に対してお金を払っているのです。

“アクセスの遅れ”が命に関わる領域

この傾向が最も深刻に現れているのが、がん治療です。

英国では、患者の約3人に1人が目標期間内に治療を開始できていないとされています。

その結果、化学療法は民間医療で支払われる治療の中でも上位を占めるようになっています。

がんのような疾患では、「数週間の遅れ」が予後を左右することも珍しくありません。

ここで「アクセス」は、単なる利便性ではなく、極めて個人的で切実な問題へと変わります。

見えにくいコスト:心理的ストレス

さらに見逃せないのが、医療アクセスの遅れがもたらす心理的負担です。

例えばイングランド北東部では、4人に1人が抗うつ薬を服用しており、ロンドンの約2倍というデータがあります。

原因は単純ではありませんが、

  • 予約が取れない
  • 結果がいつ出るかわからない
  • 治療が始まる時期が読めない

こうした“待つ不安”が積み重なり、日常的なストレスとなっていることは明らかです。

医療は単に身体を治すものではなく、生活の安定そのものを左右する要素になっています。

福利厚生の本質が変わった

──「保障」から「予防・アクセス」へ

今回のデータで象徴的なのは、生命保険よりも医療アクセスが重視されている点です。

これは、価値観の明確な転換を示しています。

  • これまで:問題が起きた後の「保障」
  • これから:問題が起きる前の「予防・早期対応」

労働者は、「万が一に備える」よりも、「そもそも問題を起こさない」「早く対処できる」環境を選び始めています。

ロンジェビティ視点:医療は“継続的なインフラ”へ

この変化は、ロンジェビティの文脈では非常に重要です。

医療はもはや「病気になったときのサービス」ではなく、日常的にアクセスできるインフラへと進化しつつあります。

早期診断、継続的モニタリング、迅速な介入。

これらに“アクセスできるかどうか”が、健康寿命を大きく左右する時代です。

日本への示唆

──同じ変化は確実に起きる

この動きは英国だけの話ではありません。

むしろ、日本の方がより大きな影響を受ける可能性があります。

高齢化が進む日本では今後、

  • 医療需要のさらなる増加
  • 医療機関の混雑
  • 診療・検査までの待ち時間の長期化

といった課題がより顕著になります。

その結果、

  • 自費診療や自由診療の利用増加
  • 企業による医療アクセス支援の強化
  • 個人の健康管理への投資拡大

といった流れが加速する可能性が高いでしょう。

つまり日本でも、「休めるか」ではなく「すぐ診てもらえるか」が重要な価値になっていきます。

投資視点:「医療アクセス」を解決する領域が伸びる

この構造変化は、投資の観点でも非常に示唆に富んでいます。

今後成長が期待されるのは、医療そのものだけではなく、医療への“アクセス”を改善する領域です。

  • 遠隔医療
  • 医療予約・マッチングプラットフォーム
  • 早期診断サービス
  • 継続的ヘルスモニタリング

これらはすべて、「待ち時間」という課題を解決するためのインフラです。

まとめ

「休暇」では解決できない問題がある

有給休暇は確かに重要です。
しかし、1週間の休みでは、

  • 診断の遅れ
  • 治療の遅延
  • 医療に対する不安

を解決することはできません。

だからこそ今、人々は「休暇」ではなく「必要なときに医療を受けられる環境」を選び始めています。

そしてこれからの時代、医療へのアクセスそのものが、最も重要な福利厚生であり、資産の一つになっていくでしょう。


参照元:https://longevity.technology/news/workers-rethink-benefits-healthspan-comes-first/