肌年齢はDNAで測れる時代へ ― DNAメチル化が映し出す新しい老化指標
肌年齢はDNAで測れる時代へ

― DNAメチル化が示した「肌の生物学的年齢」の可能性
鏡に映るシワやたるみ、くすみといった変化を見て、「最近、肌が老けたかもしれない」と感じた経験のある方も多いのではないでしょうか。
しかし、こうした“見た目の年齢”は、本当に肌そのものの老化を反映しているのでしょうか。
近年、老化研究の分野では、「生物学的年齢」という考え方が注目されています。これは、生まれてからの年数を表す暦年齢とは異なり、身体の状態そのものがどの程度老化しているかを評価する概念です。
そして、その生物学的年齢を測定する有力な方法として期待されているのが、「DNAメチル化」を利用したエピジェネティッククロックです。
今回紹介する研究では、このDNAメチル化を利用して皮膚の生物学的年齢を評価し、さらにスキンケア介入によってその指標が変化する可能性について検討されました。
エピジェネティクスとは何か
私たちの体を構成する細胞には、ほぼ同じDNAが存在しています。
それにもかかわらず、皮膚細胞は皮膚として働き、肝細胞は肝臓として機能します。
その違いを生み出しているのが、「どの遺伝子を働かせるか」という調節機構です。
この仕組みを研究する学問が「エピジェネティクス」です。
エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列そのものを書き換えることなく、環境や生活習慣、加齢などの影響によって遺伝子の働きを調節し、その状態が細胞分裂後も受け継がれる仕組みを指します。

言い換えれば、DNAそのものが人生の「設計図」だとすれば、エピジェネティクスは、その設計図のどの部分を実際に使うかを決める「付箋」や「スイッチ」のような存在といえるでしょう。
DNAメチル化とは「遺伝子のスイッチを調節する目印」
エピジェネティクスを代表する現象のひとつが「DNAメチル化」です。
DNAメチル化とは、DNAを構成する塩基の一部に「メチル基」と呼ばれる小さな化学的目印が付加される現象です。
この目印によって、特定の遺伝子が働きやすくなったり、逆に働きにくくなったりします。
重要なのは、この変化はDNA配列そのものを変えるわけではないという点です。
つまり、「遺伝子を持っているかどうか」ではなく、「その遺伝子がどの程度使われているか」を反映しているのです。
加齢に伴ってDNAメチル化のパターンは一定の変化を示すことが知られており、この変化を利用して生物学的年齢を推定する技術が「エピジェネティッククロック」です。

血液を用いたエピジェネティッククロックは、すでに疾患リスクや死亡リスクとの関連が報告されており、老化研究の標準的な手法の一つとなっています。
肌にも「エピジェネティックな時計」は存在するのか
一方、皮膚の老化については、これまで主にシワや弾力、水分量などの外観的指標によって評価されてきました。
しかし、皮膚は紫外線や大気汚染といった外的要因の影響を直接受ける特殊な組織です。
さらに、ホルモン変化や慢性炎症など、体内の加齢変化も複雑に関与しています。
そのため、「肌の見た目」と「皮膚組織そのものの老化」がどの程度一致しているのかについては、十分には解明されていませんでした。
今回、Minyueらの研究グループは、皮膚組織におけるDNAメチル化変化に着目し、肌の生物学的年齢を評価する研究を行いました。
人種を超えて共通する「肌老化のサイン」
研究では、テープストリッピング法という非侵襲的な方法によって表皮サンプルが採取されました。
これは、特殊なテープを用いて角層の細胞を回収する方法であり、皮膚生検のような侵襲を伴わない点が特徴です。
解析対象には、白人、アフリカ系、アジア系など複数の人種が含まれました。
その結果、加齢に伴うDNAメチル化の変化は、人種を超えて概ね共通していることが示されました。
つまり、皮膚の老化に伴って現れる分子レベルの変化には、人種差を超えた普遍的な特徴が存在する可能性が示唆されたのです。
これは、将来的に世界共通の「肌年齢評価法」が確立される可能性を示す重要な知見といえるでしょう。
スキンケアで「肌の生物学的年齢」は変わるのか
さらに研究チームは、ジヒドロミリセチン(DHM)を含む外用製剤を用いた介入試験も実施しました。
対象となった60名は、さまざまな肌タイプを有する女性であり、8週間にわたり製剤を使用しました。
その結果、DNAメチル化に基づくエピジェネティッククロックでは、生物学的年齢が若年方向へ変化する傾向が認められました。
加えて、シワや肌の質感、色調などの外観指標にも改善傾向が確認されました。
つまり、分子レベルで観察される「肌の若返り」と、私たちが目で確認できる「見た目の改善」が同時に起こっていた可能性が示されたのです。
もちろん、本研究は単一コホートによる比較的小規模な研究であり、さらなる検証が必要です。
しかし、「スキンケアによって肌のエピジェネティックな老化指標が変化しうる」という可能性は、美容医学や老化研究に新たな視点をもたらすものといえるでしょう。
美容は“見た目”から“分子レベル”へ
これまでスキンケア製品の評価は、シワの深さや肌水分量など、主として外観や物性に基づいて行われてきました。
しかし、今後は「肌のDNAメチル化状態」という分子レベルの情報が、新たな評価軸として加わるかもしれません。
もし皮膚の生物学的年齢を客観的に測定できるようになれば、個々の肌状態に応じたパーソナライズドスキンケアや、介入効果の定量的評価が可能になるでしょう。
老化研究は今、「どれだけ長く生きるか」だけではなく、「どのように若々しく健康に歳を重ねるか」を問い始めています。
肌は、その変化を最も身近に感じられる臓器の一つです。
今回の研究は、鏡に映る見た目の変化の背景に、DNAメチル化という分子レベルの変化が存在することを示唆しました。
そして未来のスキンケアは、「なんとなく良さそう」という感覚ではなく、「肌の生物学的年齢をどう変えたか」という科学的根拠に基づいて選択される時代へと向かっていくのかもしれません。

参照元
Mahidol IR:
Epigenetic Skin Aging and Its Reversal to Improve Skin Longevity across Ethnicities and Phototypes Using a Dihydromyricetin-Containing Serum: Results from a Prospective, Single-Cohort Study
https://repository.li.mahidol.ac.th/items/cb0e6581-b9ea-4ac6-bb15-5cdbf076b457
この記事を書いた人
1978年生まれ、京都府出身。看護師として京都市内の病院に8年間勤務後、上京。東京都内の総合病院にてICU(集中治療室)、NICU(新生児集中治療室)、手術室での高度急性期医療に従事。看護師プリセプターとして後進の育成にも尽力する。
臨床現場での経験から、既存の制度では対応困難なニーズを痛感し、24時間対応保育所や自費訪問看護ステーションを自ら立ち上げた起業家としての側面も持つ。
現在は、訪問看護の発展を支援する総合Webメディア「いろいろナース」および、抗老化とロンジェビティ(長寿科学)の実践をガイドする「こもれび抗老化ステーション」の編集長を務める。医療現場のリアルな知見と最新のロンジェビティ理論を融合させ、日本人の健康寿命延伸に寄与する情報発信を行っている。


