なぜ脳には20%のエネルギーが必要なのか?──脳から紐解く認知症を遠ざける最新の抗老化戦略

なぜ脳には20%のエネルギーが必要なのか?──脳から紐解く認知症を遠ざける最新の抗老化戦略

体重の2%なのに20%を消費!大食いな「脳」のエネルギー問題から紐解く、最新の認知症・抗老化戦略

盤面の前にじっと座り、ほとんど体を動かさない将棋のプロ棋士。

しかし、トップ棋士たちがしのぎを削るタイトル戦では、1日の対局で体重が1kg、2日制の対局ではなんと2kgも減少することがあると言います。

ただ座って考えているだけなのに、なぜそれほど過酷なのか?

──専門家によると、極限の集中状態にある棋士の脳はフル回転しており、その代謝量は常に「早歩き」をし続けているほどのエネルギーを消費しているとされています。

実は、私たち人間の脳は体重のわずか2〜3%ほどの重さしかありません。それにもかかわらず、全身の総エネルギーの約20%をたった一つの臓器で独占して消費するという、驚くほど「大食い」な性質を持っています。

人間が他の動物にはない高度な知性を手に入れたのは、この莫大なエネルギーを脳に注ぎ込む進化を選んだからに他なりません。

しかし、この「脳は大食いである」という人間ならではの特徴こそが、年齢を重ねたときに私たちの脳の健康を脅かす最大の発火点(弱点)へ変貌することをご存知でしょうか。

近年、予防医学やロンジェビティ(健康長寿)に関心が高い方の間で関心を集める「認知症」や「脳の衰え」。

その根本原因を紐解くと、実は加齢によって「20%のエネルギー供給システムが破綻していくプロセス(脳のガス欠)」が見えてくるのです。

今回は、単なるパズルのような脳トレではなく、「身体全体のエネルギー代謝を整え、脳の20%の燃料を死守する」という、最新科学に基づく本質的な脳の抗老化戦略をお届けします。

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なぜ人間の脳は20%ものエネルギーを必要とするのか?──動物との驚くべき違い

私たちは当たり前のように言葉を話し、複雑な思考を繰り広げていますが、生物の歴史から見ると人間の脳は極めて異質な「大食い組織」です。

一般的な哺乳類が脳で消費するエネルギーは全身のわずか3〜5%程度にすぎません。人間に最も近いとされるチンパンジーでさえ、その割合は10%未満にとどまります。それに対して私たち人間は、体重のわずか2%ほどの脳が、全身の20%ものエネルギーを独占しています。

なぜ、人間の脳だけがこれほど膨大なパワーを要求するのでしょうか。

その理由は、脳の神経細胞(ニューロン)の密度と、その間で交わされる「電気信号」の量が桁違いに多いからです。情報を処理する際、細胞膜にある「イオンポンプ」と呼ばれる装置が24時間365日フル稼働しています。

私たちが眠っている間すら、いつでも外部の刺激に反応できるよう脳は常に「アイドリング状態」を維持しており、ここに莫大な電力が消費され続けているのです。

人類の進化を支えた「火の調理」とエネルギー代謝のトレードオフ

ここで一つの大きな疑問が生じます。これほど燃費の悪い脳を持ちながら、なぜ人類の祖先は絶滅せずに生き残ることができたのでしょうか。

仮に野生のチンパンジーが人間並みの脳を維持しようとすれば、生の葉や肉から必要なカロリーを補うため、1日のうち9時間以上も休まず咀嚼し続けなければならない計算になります。

つまり自然界の「生食」のままでは、エネルギー不足により脳を拡大させることは物理的に不可能でした。

この限界を打ち破った人類最大のイノベーションこそが、「火を使った調理」でした。

人類の進化を支えた「火の調理」とエネルギー代謝のトレードオフ

加熱によって食物の消化吸収効率が爆発的に向上し、短時間で大量のブドウ糖(エネルギー)を摂取できるようになりました。さらに、消化しやすい食事によって、これまで多くのエネルギーを食いつぶしていた「胃や腸(消化器官)」をコンパクトに縮小することに成功します。

「消化器官で浮いたエネルギーを、すべて脳の拡大へ回す」──これこそが、進化生物学で言われる「高価な組織仮説」であり、人間が高度な知性を手に入れた奇跡のトレードオフだったのです。

脳の進化がもたらした「現代の弱点」

こうして私たちは、過酷な生存競争を生き抜くために「全身のエネルギーの20%を脳に貢ぎ続ける」という特殊な身体構造を作り上げました。

しかしこれは裏を返せば、「体内のエネルギー供給システムが少しでも滞れば、真っ先に脳が機能不全(ガス欠)に陥る」という致命的な構造的リスクを抱え込んだことを意味します。

これこそが、私たちが加齢とともに直面する「脳の老化」や「認知症」の真の原形なのです。

「脳の20%消費」はどうやって突き止められたのか?──科学者たちの執念の歴史

「頭を使っても、体を動かしていないのに本当に全身の20%ものエネルギーを消費しているのか?」──そう疑問に思う方も少なくないでしょう。

この「脳の大食いぶり」が科学的かつ圧倒的な数値として証明されるまでには、生理学者や医師たちの飽くなき挑戦の歴史がありました。

1940年代:首の血管から突き止めた「衝撃の数値」

脳のエネルギー消費を世界で初めて正確に測定したのは、1940年代後半、アメリカの生理学者シーモア・ケティ(Seymour Kety)らによる研究でした。

脳は自前のエネルギーを蓄えられないため、必要な酸素やブドウ糖はすべて「血液」によってリアルタイムで運ばれます。

ケティたちは、脳に入る前の血液(動脈血)と、脳でエネルギーを消費した後の血液(静脈血)に含まれる酸素やブドウ糖の量を測定・比較する手法を開発しました。

その結果、「脳は1分間に約750ml(心臓から出る血液の約15%)もの血液を必要とし、全身の約20%の酸素を消費している」という衝撃の事実が、世界で初めて数値として証明されたのです。

1940年代:首の血管から突き止めた「衝撃の数値」

1970〜80年代:「脳のどの部分が食べているか」を可視化したPETスキャン

1970年代に入ると、医療技術の進化によって脳のエネルギー消費を「画像」として直接見ることができるようになります。

その主役がPET(陽電子放射断層撮影)スキャンです。これは、微量の放射性物質をつけたブドウ糖を注射し、脳のどこでブドウ糖が消費されているかをカメラで捉える技術です。

この研究により、脳細胞が何もしない時でも激しくブドウ糖を消費していること、そして「言葉を話す」「文字を見る」といった特定の活動に応じて、脳の該当するエリアが瞬時にブドウ糖を猛烈に消費し始める様子がリアルタイムで可視化されました。

現代:ミクロの解明──細胞レベルの「発電量」の証明

さらに現代の分子生物学では、脳細胞の中にある「ミトコンドリア(細胞の発電所)」の働きまで解明されています。

脳の神経細胞(ニューロン)は、情報を1回伝える(電気信号をパルスとして送る)たびに、細胞内のナトリウムやカリウムといったイオンのバランスが崩れます。

これを元の状態にリセットするために、細胞膜にある「イオンポンプ」という装置が、ミトコンドリアの作ったエネルギー(ATP)を文字通り爆発的に消費します。

近年の精密な計算により、「脳が消費する20%のエネルギーのうち、実に7割以上が、この神経細胞の『電気信号のリセット(イオンポンプの作動)』のためだけに24時間体制で使われている」というミクロの根拠までが完全に証明されています。


科学が証明した「脳の20%」という重み

このように、「首の血管の測定」から始まり、現代の「分子レベルの解析」に至るまで、脳が全身の20%のエネルギーを消費している事実は、何十年にもわたる科学の積み重ねによって強固に裏付けられています。

だからこそ、この「20%の発電システム」に少しでもトラブルが起きると、私たちの記憶力や思考力は一気に牙城を崩されてしまうのです。

では、年齢を重ねるにつれて、この完璧だったはずの20%システムに一体どのような異変(破綻)が起きてしまうのでしょうか。

38歳で「保証期間」は切れる。ホメオスタシスの低下と、脳を支える仕組みの崩壊

日頃から健康への意識が高い人であっても、「40代になって急に疲れが取れなくなった」「50代を過ぎて物忘れが増えた」と焦りを感じる瞬間があるはずです。

実はこれ、生物の設計図から見れば「当然のバグ」と言えます。

近年の遺伝子科学(DNAのメチル化解析など)により、人間の生物学的な自然寿命は「約38歳」であるという衝撃の事実が分かってきました。

チンパンジーやゴリラなど、他の霊長類の寿命とほぼ同じです。

つまり、現代人が40代、50代、60代と生きられているのは、医療や公衆衛生、食生活の改善によって「自然の設計図を超えて生き延びている状態」にすぎません。

この38歳という人生の折り返し地点を境に、私たちの体内では、環境を一定に保とうとする生命維持機能「ホメオスタシス(恒常性)」の低下が始まります。

そして、このホメオスタシスの低下が真っ先に直撃するのが、全身の20%のエネルギーを要求する「大食い組織=脳」なのです。

生命の設計図:38歳は「人生のバグ」の始まり?

38歳以降、目に見えないスピードで進む「脳インフラの2大崩壊」

38歳以降、脳を支えていた重要なインフラ(仕組み)が、目に見えないスピードで以下のように崩壊していきます。

① 脳の「インスリン抵抗性」の始まり(糖の取り込み低下)

38歳を過ぎてホメオスタシスが狂い始めると、脳細胞がブドウ糖を取り込むための「鍵」であるインスリンの効き目が悪くなっていきます。

血液中にいくら糖があっても、脳がそれをエネルギーに変換できなくなる「脳の慢性的なガス欠」の芽が、40代から静かに生まれ始めるのです。

② 微小な炎症(インフラメイジング)の慢性化

若い頃は、体内で発生した小さなエラーや炎症もホメオスタシスによってすぐに消火されていました。

しかし38歳以降は、脳を含む体全体で、目に見えない「ボヤ騒ぎ(慢性微小炎症)」が続くようになります。

この炎症が、エネルギーを作るミトコンドリアを傷つけ、発電効率をさらに落とす原因になります。

参考記事:慢性炎症と抗老化──静かに燃え続ける老化の正体「インフラメイジング」とは?

なぜ50代〜60代で、記憶力低下や認知症リスクが一気に具体化するのか?

40代のうちは過去の「若い頃の貯金(基礎体力)」で補えるため、脳内部のインフラ老朽化が進んでいても表面的な不調としては現れにくく経過します。

しかし、50代・60代を迎えると事態は一変します。約20年間にわたり蓄積した「エネルギー不足」と「微小炎症」のツケが顕在化するためです。

50代:神経ネットワークの動揺と「思考の鈍化」

ネットワークの不安定化と「思考の鈍化」近年の脳機能MRI研究では、40代から50代にかけて、脳の神経ネットワークの安定性が「非線形(一急激に)」に低下していくことが分かっています。

脳全体の発電量(ATP)が足りなくなるため、一度に複数のことを処理するマルチタスクが難しくなったり、言葉がパッと出てこなくなったりする「思考の鈍化」が具体化します。

60代:ゴミの排出不全による「認知症リスク」の爆発

ゴミの蓄積が限界を超え「認知症リスク」が跳ね上がる脳が20%ものエネルギーを消費する過程で出るゴミ(アミロイドβなど)は、本来睡眠中に排水(グリンパティック・システムで除去)されます。

しかし、加齢によってこの排水ポンプ自体のエネルギーも不足するため、20年分のゴミが脳内に深刻なレベルで蓄積してしまいます。

これが限界突破するのが60代以降です。溜まったゴミが神経細胞を物理的に死滅させ、脳の萎縮を引き起こすことで、多くの人が恐れるアルツハイマー病などの認知症リスクが爆発的に上昇します。

認知症は「単一のバグ」ではない──身体丸ごとのチーム戦

親が認知症だからといって、「遺伝だから防げない」と絶望する必要はありません。

ここまで見てきた通り、認知症や脳の老化の正体は、特定の遺伝子だけのせいではなく、「38歳以降に崩れていく身体全体のエネルギー代謝のバランス崩壊」の最終結果だからです。

つまり、脳という20%消費のスーパーコンピューターを守るためには、脳トレをするのではなく、「身体全体の発電(ミトコンドリア)を高め、糖の巡りを整え、毎晩ゴミを出す」という、身体丸ごとのホメオスタシス管理が不可欠になります。

脳を襲う「3大エネルギー破綻」の全貌──20%の電力供給システムが崩壊するメカニズム

38歳という生物学的寿命を過ぎ、ホメオスタシスが低下していく過程で、全身のエネルギーの20%を要求する脳のインフラは確実に老朽化していきます。

その結果、50代・60代に差し掛かったときに牙をむくのが、脳内の「3大エネルギー破綻」です。

これらは独立して起きているのではなく、三位一体となって脳の機能不全を加速させます。

それぞれのメカニズムを詳しく見ていきましょう。

破綻1:糖代謝の低下──燃料があるのに取り込めない「脳の3型糖尿病」

脳が20%のエネルギーを維持するための唯一のメイン燃料は、血液によって運ばれる「ブドウ糖(グルコース)」です。脳は自前のエネルギー蓄積能力を持たないため、24時間365日、絶え間なく血液からブドウ糖を取り込み続けなければなりません。

しかし加齢に伴い、血管から脳へとブドウ糖を輸送するゲート(GLUT1などの糖輸送体)の機能が低下します。近年の神経代謝学の研究では、脳のブドウ糖代謝能力は10年ごとに約5%ずつ低下することが示されています。

さらに深刻なのが、脳の細胞がインスリンを受け付けなくなる「脳のインスリン抵抗性」です。血液中にどれだけ糖が存在していても脳内部に取り込めず、深刻な飢餓に陥る「脳の慢性的なガス欠」が発生します。これこそが、近年の医学界でアルツハイマー病が「3型糖尿病」と称される所以です。

破綻2:ミトコンドリアの劣化──発電効率の低下と「有害な排気ガス」の逆襲

脳細胞に辛うじて取り込まれたブドウ糖は、細胞内にある発電所「ミトコンドリア」によって、脳の電気活動に使われるエネルギー(ATP)へと変換されます。

脳が20%の電力を維持できるのは、このミトコンドリアが超高効率で発電し続けているおかげです。

しかし、加齢によってホメオスタシスが低下すると、ミトコンドリア自体の質が劣化し、発電効率が著しく落ちてしまいます。

さらに最悪なのは、劣化したミトコンドリアはエネルギーを作る過程で、「活性酸素」という有害な排気ガスを大量に撒き散らすようになる点です。

脳は全身の中でも特に脂質が多く、酸化しやすい(サビやすい)組織です。エネルギー不足で弱り切った脳細胞に、この活性酸素の攻撃が加わることで、神経細胞のネットワークが物理的に破壊され、脳の萎縮(老化)が急速に進行します。

破綻3:グリンパティック・システムの低下──排水溝の詰まりによる「脳のゴミ屋敷化」

脳が全身の20%ものエネルギーを消費して激しく活動すれば、当然、そこには大量の代謝ゴミ(老廃物)が生まれます。

その代表例が、認知症の原因物質として知られる「アミロイドβ」や「タウタンパク質」です。

本来、私たちの脳には「グリンパティック・システム」と呼ばれる、脳専用の画期的な排水・洗浄システムが備わっています。

私たちが深い睡眠に入ると、脳細胞がわずかに縮んで隙間を作り、そこを脳脊髄液が激しく流れることで、その日に出たゴミを綺麗に洗い流してくれるのです。

しかし、この排水ポンプを作動させるためにも莫大なエネルギーが必要です。「1. 糖代謝の低下」と「2. ミトコンドリアの劣化」によって脳がエネルギー不足に陥ると、このグリンパティック・システムを動かす電力さえも足りなくなります。

さらに加齢による睡眠の質の低下が重なることで、排水溝は完全に詰まり、脳内は20年分のゴミが溜まった「ゴミ屋敷」と化してしまいます。

行き場を失ったゴミが神経細胞を圧迫し、さらにエネルギー代謝を悪化させるという、最悪の負のスパイラルが完成するのです。

参考記事:睡眠は最強の抗老化戦略──レム睡眠・ノンレム睡眠から学ぶロンジェビティ習慣

脳の老化は単なる「年齢のせい」ではない

認知症や脳の老化の本質は、特定の細胞が突如死亡するような単純なバグではありません。

  • 燃料が届かない(糖代謝低下)
  • 発電所でトラブルが発生する(ミトコンドリア劣化)
  • 老廃物が排出されない(グリンパティック低下)

という、エネルギー供給チェーン全体のシステムエラーなのです。

逆に言えば、この3大破綻が起きるメカニズムがこれほど明確であるならば、私たちは「身体全体の代謝をハックする」ことで、この崩壊を未然に防ぎ、100年時代を生き抜く脳を維持できるということです。

次章では、意識の高いロンジェビティ実践者が今すぐ取り入れるべき、脳の20%の電力を死守する「3つの具体的戦略」を提案します。

脳の20%の電力を死守する、実践ロンジェビティ戦略──身体全体の調和を取り戻す3つのアプローチ

脳の「3大エネルギー破綻」という負のドミノを止め、38歳という生物学的寿命の壁を越えて脳を活性化し続けるためには、脳だけにアプローチしても意味はありません。

大切なのは、「身体全体のシステムを調和させ、脳が欲する20%のエネルギーを滞りなく送り届けること」です。

ここでは、最新の長寿科学(ロンジェビティ)が推奨する、身体丸ごとで脳を守る3つの統合的戦略をご提案します。

戦略1:食事 ──「第二のハイブリッド燃料(ケトン体)」で脳のガス欠を救う

加齢に伴い、脳のブドウ糖代謝(糖の取り込み)が低下していくことは避けられない生理現象です。しかし、諦める必要はありません。私たちの脳には、ブドウ糖が使えなくなった際に代用できる「ケトン体」という第二の燃料(ハイブリッドシステム)が備わっているからです。

最新の栄養科学では、加齢でブドウ糖の代謝が落ちても、脳がケトン体をエネルギーとして利用する能力はほとんど衰えないことが判明しています。

参考記事:ケトン体が導く“もう一つの代謝”──抗老化とロンジェビティを支える静かなエネルギー革命

実践:MCTオイル(中鎖脂肪酸)の活用

毎日の食事やコーヒーに大さじ1杯のMCTオイルを取り入れましょう。MCTオイルは一般的な油と違い、肝臓へ直接運ばれて素早く「ケトン体」へと変換され、脳のバリアを通過して直接エネルギーになります。

身体全体の調和としての意味

MCTオイルの摂取や、12〜16時間のプチ断食(空腹時間を長くする)は、体内の過剰なインスリン分泌を抑え、全身の糖代謝のバランスをリセットします。

これは、現代人に多い「慢性微小炎症(インフラメイジング)」を鎮め、脳だけでなく全身のミトコンドリアの発電効率を底上げする、最も調和のとれた食事療法なのです。

戦略2:運動 ──「強制送電」とミトコンドリアの再起動

どれだけ優れた燃料(ブドウ糖やケトン体)を体内で用意しても、それを脳へ運ぶ「物流網(血流)」が滞っていては意味がありません。

脳のエネルギー供給は、すべて心臓から送り出される血液の循環に依存しています。

参考記事:運動で脳を鍛える時代へ──認知機能の抗老化とロンジェビティを支える“脳の若返り戦略”

実践:1日20〜30分の「やや息が上がる」有酸素運動

早歩きのウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどを週に3〜4回行います。

身体調和の意味

運動をすると、心臓から脳への血流量が強制的にアップし、脳の隅々の毛細血管まで酸素と栄養が届きます。

さらに、運動による筋肉への適度な負荷(ストレス)は、全身の細胞に対して「もっとエネルギーを作れ!」というシグナルとなり、劣化したミトコンドリアを新しく生まれ変わらせる(ミトコンドリア・バイオジェネシス)を引き起こします。

自律神経のバランスも整い、全身の巡りが「脳の20%消費」を支えるために最適化されます。

戦略3:睡眠 ── 毎晩の「自動メンテナンス」で脳内ゴミ屋敷を完全清掃

食事と運動でエネルギーを補給したら、最後に行うべきは、エネルギー消費の副産物であるアミロイドβなどの「毒性ゴミ」の徹底的な掃除です。

前述の通り、脳の排水システム「グリンパティック・システム」は、睡眠中にしかまともに作動しません。

実践:7〜8時間の「質の高い深い睡眠」の確保

ただ横になるだけでなく、寝る前のスマートフォン(ブルーライト)を控え、深部体温を下げるために就寝90分前に湯船に浸かるなど、深いノンレム睡眠(脳が最も縮んで洗浄が行われる時間)を確保します。

身体調和の意味

睡眠は、脳のゴミ出しの時間であると同時に、全身の免疫システムやホルモンバランスを「リセット」するホメオスタシス維持の最高峰の手段です。

夜間にしっかりゴミが出されることで、翌朝の脳は100%のクリーンな状態で目覚め、食事から得たエネルギーを再び効率よく消費できるようになります。

睡眠をおろそかにすることは、全身の調和を破綻させる最大の原因となります。

脳の健康管理とは「生き方の調和」そのもの

多くの人は、脳の抗老化と聞くと、頭を使うパズルや脳トレ、あるいは魔法のようなサプリメントを思い浮かべます。

しかし、それらは部分的な対処療法にすぎません。体重のわずか2%でありながら、全身の20%のエネルギーを要求する私たちの脳は、私たちの「生き方、食べ方、動き方、眠り方」のすべての結果(調和)を映し出す鏡です。

親の認知症を恐れる必要はありません。38歳という生物学的寿命を越えたこれからの人生、「身体全体の代謝の調和を整え、脳に必要な20%の電力を滞りなく送り届けること」。

それこそが、100年時代をクリアで聡明に生き抜くための、最も本質的で、最も強力なロンジェビティ(長寿科学)の実践なのです。

おわりに:遺伝の恐怖を越えて、あなたが今から選べる未来

どれほど日頃から食事や運動に気を配り、高い意識で健康を管理していても、ふと「親の認知症」という現実に直面したとき、言葉にできない不安に襲われることがあります。

「どんなに努力しても、遺伝には抗えないのだろうか」「自分もいつか、同じように大切な記憶を失ってしまうのではないか」そんな、暗闇の中で足元が揺らぐような恐怖を感じている方も少なくないかもしれません。

しかし、今回「脳が必要とする20%のエネルギー」という視点から脳の仕組みを紐解いてきた理由は、まさにその「見えない恐怖」に、科学的な希望の光を当てるためです。

最新の長寿科学(ロンジェビティ)やエピジェネティクス(後天的遺伝子制御)の研究は、私たちに非常に力強い事実を教えてくれています。

それは、「遺伝子が持つ影響は、私たちの人生の設計図のほんの一部にすぎず、そのスイッチをオンにするかオフにするかは、日々の生活環境(食事・運動・睡眠)が決定づける」ということです。

認知症や脳の老化は、ある日突然、運命のようにあなたを襲う呪いではありません。

それは、38歳という生物学的寿命を過ぎた体の中で、何十年にもわたって「エネルギーの需要と供給のバランス」が少しずつ崩れていった結果として起こる、いわば身体全体のシステムエラーです。

原因がシステムエラーであるならば、打つ手は必ずあります。

あなたが今日選んだ、脳に第二の燃料を届けるスプーン1杯のMCTオイル。

あなたが今日歩いた、脳細胞に酸素を送り込む20分のウォーキング。

あなたが今夜自分に与える、脳のゴミを洗い流すための心地よい眠り。

これらの一つひとつは、単なる一時的な体調管理ではありません。

野生の設計図を書き換え、100年時代をクリアな頭脳で生き抜くために、あなたが身体全体の調和を自らの手で整え、脳の20%の電力を死守している「素晴らしいロンジェビティの実践」そのものなのです。

脳は、あなたが注いだケアに対して、何歳からでも必ず応えてくれます。

「運命に怯える日々」からは、もう卒業しましょう。

身体丸ごとの調和を整えるという新しいアプローチを胸に、今日からの1日を、もっと前向きに、もっと愛おしく、聡明な未来へ向かって歩みを進めていきませんか。


参考文献

脳の20%エネルギー消費の発見と歴史

Kety, S. S., & Schmidt, C. F. (1948). The nitrous oxide method for the quantitative determination of cerebral blood flow in man: theory, procedure and normal values. Journal of Clinical Investigation.

概要:シーモア・ケティらによる、世界で初めて脳の血液・酸素消費量を正確に測定した歴史的論文。

参考リンク:PubMed - Kety-Schmidt Technique Appraisal
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8314918/

加齢に伴う脳のエネルギー代謝低下―神経変性疾患の発症機序
Energy Metabolism Decline in the Aging Brain—Pathogenesis of Neurodegenerative Disorders
参考リンク:PubMed
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7695180/

人間の生物学的・自然寿命「38歳」の研究

Mayne, B., et al. (2019). A lifespan estimator for mammals based on DNA methylation. Scientific Reports.

概要:オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)がDNAのメチル化(DNA時計)を解析し、現生人類の本来の自然寿命が38歳であることを割り出した研究。

参考リンク:Newsweek Japan - 生物の寿命はDNAに書き込まれている
https://www.newsweekjapan.jp/articles/-/35931?display=b

アルツハイマー病とインスリン抵抗性(3型糖尿病説)

de la Monte, S. M., & Wands, J. R. (2005). Review of insulin and insulin-like growth factor expression and function in central nervous system with regard to Alzheimer's disease. Journal of Alzheimer's Disease.

概要:アルツハイマー病の本質が「脳のインスリン抵抗性(脳の糖尿病)」であることを提唱した米国ブラウン大学の著名な論文。

参考リンク:五良ファミリークリニック - 糖尿病と認知症の危険な関係
https://goryo-family.clinic/diabetes-dementia

睡眠中の脳のゴミ出しシステム(グリンパティック・システム)

Xie, L., et al. (2013). Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science.

概要:ロチェスター大学などの研究チームが、睡眠中に脳脊髄液がアミロイドβなどの老廃物を洗い流す仕組み(グリンパティック・システム)を解明した画期的な研究。

参考リンク:日本経済新聞 - 睡眠中に脳をお掃除 老廃物を洗い流すグリンパティック系
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG191MJ0Z10C26A5000000/