「いつ食べるか」が若さを決める?──食事時間の乱れと老化マーカー(GDF-15)の意外な関係

食事時間が不規則な高齢者ほど老化マーカーが高い?最新論文を解説
海外のロンジェビティ(抗老化・長寿)に関する最新知見やバイオテック投資の動向をお届けする「ロンジェビティニュース」。
今回は、国立長寿医療研究センターのフレイル研究部 木下主任研究員らが発表した最新の研究成果をご紹介します。
超高齢社会を迎える中で「いかに健康的に歳を重ねるか(健康的な加齢)」は、世界的な公衆衛生上の最重要課題の一つです。
その対策として、毎日の「食事」は私たちが自らの意思で改善できる極めて効果的なアプローチとされてきました。
さらに近年の抗老化研究では、何を食べるかという栄養の質にとどまらず、「いつ食べるか」という体内時計(概日リズム)を意識した食事戦略の重要性が急速に高まっています。
そうした背景のもとで行われた今回の研究では、食事時間が不規則な高齢者ほど生物学的老化を示すマーカーが高く、その背景には食事の質の低さが一部関与していることが明らかにされました。
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細胞のSOSサイン「GDF-15」とは
本研究で注目された「GDF-15(成長分化因子15)」は、体内の細胞が酸化ストレスや炎症、細胞の損傷といったダメージを受けた際に分泌されるタンパク質(サイトカイン)の一種です。
通常、健康な組織ではその発現量はごくわずかに抑えられています。しかし、細胞が低酸素状態に陥ったり、強い酸化ストレスや炎症、DNAの損傷といった危機的な刺激を受けると、血液中のGDF-15濃度が急激に上昇します。
まさに、体内の異常を全身へ知らせる「危険シグナル(SOSサイン)」として機能しているのです。
このGDF-15は、年齢を重ねるにつれて血中濃度が自然と高くなる性質を持っています。
それだけでなく、カレンダー上の「実年齢」以上に細胞がどれだけ傷つき衰えているか、また将来の健康寿命がどれほど維持できるかといった状態を高い精度で反映します。
こうした特徴から、近年では「個人の生物学的年齢(実際の細胞の若さ)を科学的に測る最も有力なバイオマーカーの1つ」として、世界中のロンジェビティ研究で非常に強い注目を集めています。
若くても進行する?驚きの研究結果
研究結果において特に印象的だったのは、65歳以上の自立した地域住民378名を対象とした分析で、食事時間が不規則なグループは、規則的なグループよりも平均年齢が約2歳若かったという点です。
しかし、年齢や併存疾患、睡眠時間、運動習慣、喫煙などの要因を調整して分析したところ、若かったにもかかわらず血中のGDF-15濃度が有意に高いという結果が出ました。
これは、実年齢にかかわらず、食事時間の乱れが体の生物学的老化を加速させている可能性を示しています。
背景にある「食事の質」と野菜・魚不足
なぜ食事時間が不規則になると老化マーカーが上がってしまうのでしょうか。
研究チームが分析を行ったところ、食事時間が不規則な人は「栄養バランスの質(栄養密度)」が著しく低下しており、この栄養密度の低さがGDF-15上昇の要因の約14.5%を説明している(媒介している)ことが判明しました。
特に注目したいのが「魚介類」の摂取量です。
全体として食事の質を高めるために寄与している食品群は、第1位が「野菜」、第2位が「魚介類」、第3位が「卵類」でした。
食事時間の規則的なグループと不規則なグループを比較した際、野菜や卵類の摂取量には大きな差が見られなかったものの、不規則なグループでは魚介類の摂取量が有意に少ないことが浮き彫りになりました。
食事時間が不規則になることで、特に魚介類をはじめとする大切な栄養素が不足しやすくなり、それが生物学的老化に影響を与えている可能性が示唆されています。
これからの健康維持に向けた視点
今回の研究では、食事の質の低さが影響している割合は14.5%にとどまっており、それ以外の要因(体内時計の乱れや欠食など)も影響していると考えられます。
それでも、「若いうちは大丈夫」と過信せず、栄養バランスの良い食事を心がけること、そして「毎日決まった時間に食べる」という生活リズムを整えることが、細胞レベルで若々しさを保つための新たな鍵となりそうです。
まとめ──「いつ食べるか」が将来の健康投資になる
毎日の「何を食べるか」という栄養バランスはもちろん、「いつ食べるか」という食事のリズムを整えることが、私たちの体を細胞レベルから若々しく保つための心強い習慣になります。
慌ただしい日々の中でも、決まった時間に野菜や魚介類を取り入れた食事を楽しむ——そんな小さく確かな積み重ねが、将来の健やかで豊かな人生を支える何よりの投資となるはずです。
参照元
国立長寿医療研究センター:フレイル研究部 木下かほり主任研究員らが、食事時間が不規則な高齢者ほど老化関連マーカーが高い傾向にあり、この関連の一部を食事の質の低さが説明していることを明らかにしました
https://www.ncgg.go.jp/ri/news/20260626-1.html
link.springer.com:Mealtime irregularity is associated with higher serum growth differentiation factor-15 levels in older adults: the explanatory role of dietary quality
https://link.springer.com/article/10.1007/s41999-026-01524-9
National Institutes of Health (.gov):Mealtime irregularity is associated with higher serum growth differentiation factor-15 levels in older adults: the explanatory role of dietary quality
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42301586/
この記事を書いた人
桃井 里奈(編集長)
1978年生まれ、京都府出身。看護師として京都市内の病院に8年間勤務後、上京。東京都内の総合病院にてICU(集中治療室)、NICU(新生児集中治療室)、手術室での高度急性期医療に従事。看護師プリセプターとして後進の育成にも尽力する。
臨床現場での経験から、既存の制度では対応困難なニーズを痛感し、24時間対応保育所や自費訪問看護ステーションを自ら立ち上げた起業家としての側面も持つ。
現在は、訪問看護の発展を支援する総合Webメディア「いろいろナース」および、抗老化とロンジェビティ(長寿科学)の実践をガイドする「こもれび抗老化ステーション」の編集長を務める。医療現場のリアルな知見と最新のロンジェビティ理論を融合させ、日本人の健康寿命延伸に寄与する情報発信を行っている。
【医学監修】西嶌 暁生
(銀座こもれびクリニック 院長 / 形成外科専門医・医学博士・MBA)
形成外科専門医および医学博士として臨床・先端医療に携わるとともに、MBAの視点を活かした持続可能な医療・ヘルスケアの領域に取り組む。「単に長く生きるだけでなく、より良く生きる(ウェルビーイング)」を医療理念に掲げ、銀座こもれびクリニックにて患者一人ひとりのQOL向上と健康寿命延伸を実践。本メディア「こもれび抗老化ステーション」では、医療・長寿科学の視点から専門的な知見の提供や記事の医学的アドバイスを行っている。


