長寿社会への準備はできていますか?──米国の『長寿準備度指数』60点が示す、人生100年時代の新しい課題

長く生きる時代に、私たちは何を準備しておくべきなのか
「人生100年時代」という言葉が広く知られるようになりました。医療の進歩や生活環境の改善によって、私たちはかつてないほど長い人生を送る可能性を持つようになっています。
しかし、長く生きられることと、長い人生を豊かに過ごせることは同じではありません。
健康を維持することはもちろん、経済的な備え、住まい、介護、家族や友人との関係、地域社会とのつながり、そして人生の転機にどう向き合うか。長寿社会を生きるためには、これまでの「老後の資金を準備する」という考え方だけでは十分ではなくなっているのかもしれません。
こうした課題を可視化しようとする取り組みが、アメリカで始まっています。
2026年10月27日、アメリカの生命保険・金融サービス会社ジョン・ハンコック社と、マサチューセッツ工科大学(MIT)のAgeLab(エイジラボ)が、2026年版「長寿準備指数(Longevity Preparedness Index:LPI)」を発表しました。
この調査によると、アメリカ人の長寿準備度は100点満点中60点。前年の2025年と同じ水準にとどまりました。
興味深いのは、長寿への準備を8つの領域に分けて評価していることです。地域社会や社会的なつながりは比較的高い一方で、介護への準備は43点と最も低い結果でした。
この結果は、長寿への関心や意識が高まっても、実際に長い人生を支える仕組みや準備は、まだ十分に整っていないことを示唆しています。
そして、MITエイジラボの創設者兼所長であるジョー・コフリン博士のコメントには、これからの長寿社会を考えるうえで重要な視点が含まれています。
「もはや、老後のためにどれだけ貯蓄したかという話だけでは済まされません。どこに住むのか、誰と暮らすのか、誰が自分の面倒を見てくれるのかを考える必要があります」
長寿への備えは、資産形成だけでなく、人生そのものの設計へと広がっているのです。
今回は、この調査の内容を紹介するとともに、ジョン・ハンコック社が長寿を前提としたサービスを展開している背景、そして日本のロンジェビティ社会にとって何を意味するのかを考察します。
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1.アメリカ人の長寿準備度は100点満点中60点
──MITエイジラボとジョン・ハンコック社が開発した長寿準備指数
今回発表された長寿準備指数(LPI)は、人々が長く、健康で、充実した人生を送るための準備がどの程度できているかを評価するための指標です。
開発したのは、MITエイジラボとジョン・ハンコック社です。2025年に続く2回目の調査となり、2026年のアメリカ人の総合スコアは100点満点中60点でした。
前年と同じ点数であり、長寿への関心が高まる一方で、実際の準備状況には大きな進展が見られていないことが分かります。
この指数の特徴は、長寿への備えを単なる経済的な準備に限定していないことです。健康、住まい、介護、日常生活、人間関係など、長い人生を支える複数の要素を総合的に評価しています。
長寿への備えを8つの領域から評価
LPIでは、長寿への準備を次の8つの領域に分けています。

健康(Health)は、長い人生を健康に過ごすための生活習慣や健康管理への備えです。
経済(Financial)は、長寿によって延びる生活期間を支える資金や経済的な計画に関する領域です。
介護(Care)は、自分や家族に介護が必要になった場合に、誰がどのように支えるのかという準備を評価します。
住居(Home)は、年齢を重ねても安全で快適に暮らし続けられる住環境や、必要に応じた住まいの見直しに関する領域です。
日常生活(Daily Living)は、買い物や移動、家事など、日々の暮らしを維持するための準備です。
地域社会(Community)は、地域の中で支え合いながら生活できる環境や、地域との関わりに関する領域です。
人生の転機(Life Transitions)は、退職、転居、家族構成の変化、健康状態の変化など、人生の節目に対応するための準備です。
社会的なつながり(Social Connection)は、家族や友人、周囲の人々との関係を維持し、孤立を防ぐための備えです。
それぞれの領域を0点から100点で評価し、その平均を総合スコアとしています。
つまり、この指数は「何歳まで生きられるか」や「身体が何歳相当か」を測定するものではありません。長寿化する社会の中で、自分の人生をどれだけ主体的に準備できているかを可視化するための指標なのです。
最も高いのは地域社会、最も低いのは介護への備え
2026年の調査結果では、8つの領域の間に興味深い差が見られました。
地域社会が71点で最も高く、社会的なつながりが69点で続きました。一方、最も低かったのは介護の43点です。住居と健康もそれぞれ56点にとどまりました。
特に注目したいのは、介護への準備が他の領域と比べて大きく遅れていることです。
長寿社会では、自分自身や家族に介護が必要になる可能性を考えておかなければなりません。
しかし、実際に誰が介護を担うのか、どこで暮らすのか、必要なサービスをどのように利用するのかといった具体的な計画は、十分に進んでいないことがうかがえます。
また、前年から変化したのは人生の転機に関する領域だけで、2ポイント上昇しました。それ以外の領域では大きな変化が見られず、総合スコアも60点のままでした。
長寿の重要性を理解することと、実際に行動を起こすことの間には、まだ大きな隔たりがあるといえます。
2.なぜ老舗生命保険会社が「長寿準備」を事業の中心に据えるのか
──ジョン・ハンコック社とは
今回の調査を発表したジョン・ハンコック社(John Hancock)は、アメリカ・ボストンを拠点とする生命保険・金融サービス会社です。
1862年に創業した歴史を持ち、現在はカナダの大手金融サービスグループであるマニュライフ・ファイナンシャルの傘下企業として、アメリカで生命保険や資産運用、退職後の生活設計などのサービスを提供しています。
生命保険会社というと、一般的には万が一の際の保障や、死亡後に家族へ資産を残すための商品をイメージするかもしれません。
しかし、長寿化が進む社会では、保険会社が向き合う課題も変わってきます。
人々が長く生きるようになれば、必要な保障期間や資産形成の期間も長くなります。
退職後の生活資金だけでなく、健康を維持するための支援、介護への備え、住まいの問題など、人生のさまざまな段階に関わるニーズが生まれます。
そのため、保険会社にとって長寿は、単に保険金の支払い期間が延びるという問題ではありません。
顧客が長い人生をどのように健康で充実して過ごせるかを支援することが、事業の新しい価値につながっているのです。
保険を提供するだけでなく、長い人生を支えるサービスへ
ジョン・ハンコック社は、今回のLPIの結果を自社のサービスにも活用していると説明しています。
その一つが「John Hancock Pathways」です。対象となる保険契約者に対して、介護や在宅での老後に向けた情報、個別の支援、健康的な習慣づくりなどを提供するプラットフォームです。
また、「John Hancock Vitality Program」では、健康的な生活習慣を促す仕組みや、予防・早期発見に関連する外部サービスへのアクセスを提供しています。
対象となる契約や利用条件によっては、GRAILのGalleri、Prenuvo、Function Healthなど、健康情報や検査に関わるサービスへのアクセスも含まれています。
ただし、これらはジョン・ハンコック社自身が医療サービスを提供しているという意味ではありません。各サービスは独立した外部事業者が提供するものであり、利用資格や提供地域、条件などにも制限があります。
重要なのは、生命保険会社が保険商品だけでなく、健康習慣、予防、検査、介護、退職後の生活設計などを組み合わせ、長い人生を支えるサービスへと事業を広げていることです。
長寿化は、金融・医療・介護をつなぐ新しい市場を生み出す
この動きは、ジョン・ハンコック社だけに限られたものではありません。
長寿化が進むと、金融、保険、医療、ヘルスケア、介護、住まい、移動、食事、運動など、これまで別々に扱われてきた領域が、同じ顧客の人生を支えるものとして結びついていきます。
例えば、退職後の生活資金を計画する際には、何歳まで働くのかだけでなく、健康状態をどのように維持するのか、介護が必要になった場合にどのような費用が発生するのか、どこに住み続けるのかといったことも関係します。
健康状態が長期的な生活設計に影響し、経済的な準備が医療や介護の選択肢にも影響するからです。
長寿を前提としたサービスは、こうした課題を一体として捉えようとするものです。
ここに、ロンジェビティが医療や美容の一分野にとどまらず、金融や保険、地域社会、生活産業にも広がる可能性があります。
3.MITエイジラボが示す、長寿社会の本質的な課題
──「いくら貯蓄したか」だけでは、長い人生に備えられない
今回の発表で、特に示唆に富んでいるのが、MITエイジラボの創設者兼所長であるジョー・コフリン博士のコメントです。
博士は、長寿への備えについて、次のように述べています。
「長寿への備えは、21世紀における経済的、社会的な課題の中でも特に重要なものの一つです。もはや、老後のためにどれだけ貯蓄したかという話だけでは済まされません。より多くの人々が、『どこに住むのか?』『誰と暮らすのか?』『誰が自分の面倒を見てくれるのか?』と自問自答する必要があります。そして、より多くの組織が、人々が有意義な進歩を遂げられるよう、どのように支援できるかを考える必要があるのです。」
この言葉が重要なのは、長寿への備えを、個人の経済的な問題から、生活環境や人間関係、社会の仕組みまで含む課題へと広げているからです。
たとえ十分な資産があっても、健康を損なえば、望む生活を続けられないかもしれません。住まいが身体機能の変化に対応できなければ、自立した生活が難しくなることもあります。
また、家族や友人とのつながりが乏しく、困ったときに頼れる人がいなければ、経済的な準備だけでは解決できない問題が生じます。
長い人生を支えるものは、お金だけではありません。健康、住まい、人との関係、社会とのつながり、そして必要なときに支援を受けられる仕組みがそろって初めて、長寿は豊かな人生につながるのです。
長寿の課題は、個人だけで解決できるものではない
コフリン博士のコメントでもう一つ注目したいのは、個人だけでなく、組織や社会にも行動を求めている点です。
長寿への準備を個人の責任だけにしてしまうと、経済的な余裕や家族構成、住んでいる地域などによって、大きな格差が生まれる可能性があります。
例えば、介護サービスが十分に整っていない地域では、個人がどれほど早く準備を始めても、必要な支援を受けられないことがあります。高齢者が働き続けたいと思っても、職場環境や雇用制度が対応していなければ、希望を実現することは難しくなります。
住まいや移動手段、地域の交流機会なども同様です。
だからこそ、長寿社会への対応には、個人の意識や行動だけでなく、企業、医療機関、自治体、金融機関、地域社会などが連携していく必要があります。
長寿準備度指数は、個人が自分の準備状況を振り返るための指標であると同時に、社会がどのような支援体制を整えるべきかを考えるきっかけにもなるのです。
4.金融専門家と関わる人は、長寿準備度が高いという結果
──総合スコアに9ポイントの差
今回の調査では、もう一つ興味深い結果が報告されています。
金融専門家と連携した経験がある人の総合スコアは67点だったのに対し、連携したことがない人は58点でした。金融専門家と関わりのある人の方が、9ポイント高い結果となっています。
さらに、この差は経済面だけではなく、調査対象となった8つの領域すべてで確認されました。
ジョン・ハンコック社は、この結果について、金融専門家との連携が、資産形成だけでなく、健康、介護、人生の転機などを含めた総合的な長寿準備につながっていると説明しています。
確かに、金融の専門家と将来について相談することは、長い人生を具体的に考えるきっかけになるでしょう。退職後の生活費を計算すれば、何歳まで働く必要があるのか、住まいをどうするのか、介護にどの程度の費用を見込むのかといった課題も見えてきます。
一つの専門家との対話が、人生全体を見直すきっかけになることは十分に考えられます。
ただし、専門家との連携が高得点の原因とは限らない
一方で、この結果を解釈する際には注意が必要です。
今回の調査は、金融専門家と関わった経験のある人と、そうでない人のスコアを比較したものです。そのため、両者の間に関連性があることは示していますが、金融専門家との連携によって長寿準備度が高くなったという因果関係までは証明していません。
もともと将来への関心が高く、計画的に行動する人ほど、金融専門家に相談する可能性があります。
つまり、金融専門家との連携が準備度を高めたのではなく、準備意識の高い人が専門家を活用しているという可能性も考えられます。
また、調査を実施したジョン・ハンコック社は、生命保険や資産運用、退職後の金融サービスを提供する企業であり、調査費用も同社が負担しています。
同社は、調査結果や方法論、結論には影響を与えていないと説明していますが、結果を読む際には、調査の資金提供者と事業上の関係を理解しておくことが大切です。
この点を踏まえても、長寿への備えには金融面だけでなく、健康や介護、住まいなどを含めた包括的な計画が必要だという示唆は重要です。
5.長寿準備度を数値化することの意味
──数値にすることで、自分の課題に気づく
今回のLPIで興味深いのは、長寿への備えという漠然としたテーマを、8つの領域に分けて数値化したことです。
「長生きするために準備しましょう」と言われても、何から始めればよいのか分からない人は少なくないでしょう。
しかし、健康、経済、介護、住まい、日常生活、地域社会、人生の転機、社会的なつながりという形で整理されれば、自分にとって何が不足しているのかを考えやすくなります。
例えば、健康管理には気を配っていても、将来の住まいや介護については考えたことがない人がいるかもしれません。経済的な準備はできていても、家族以外に頼れる人がいないという人もいるでしょう。
一方で、地域とのつながりは豊かでも、健康維持や経済的な計画が十分ではない場合もあります。
このように、長寿への準備を複数の視点から振り返ることで、これまで意識していなかった課題を発見できる可能性があります。
LPIは寿命や健康状態を予測する検査ではない
ここで大切なのは、LPIが医学的な検査や寿命予測のための指標ではないということです。
DunedinPACEなどのエピジェネティッククロックがDNAメチル化を用いて生物学的な老化の進行速度を推定するのに対し、LPIは本人の行動や認識を通じて、長い人生への準備状況を評価するものです。
つまり、両者は測定しているものが異なります。
LPIの60点は、アメリカ人の平均寿命が60点相当であるという意味でも、健康状態が60%であるという意味でもありません。あくまで、長寿に関わる8つの領域における準備度を調査上の方法で数値化したものです。
また、今回の調査はアメリカの成人1,340人を対象としたものであり、日本人の長寿準備度を直接示すものではありません。調査は2026年5月8日から26日にかけて、NORC AmeriSpeakパネルを通じてオンラインおよび電話で実施され、アメリカの人口構成を反映するように回答が重み付けされています。
そのため、日本とアメリカの点数を単純に比較することはできません。
しかし、長寿への準備を多面的に捉え、個人が自分の状況を振り返るきっかけをつくるという考え方は、日本においても参考になるものです。
6.日本の「人生100年時代」に必要な長寿準備とは
──健康寿命を延ばすことと、長い人生を設計すること
日本でも、平均寿命と健康寿命の差を縮めることは重要な政策課題となっています。
健康寿命とは、健康上の問題によって日常生活が制限されることなく生活できる期間を指します。単に長く生きるだけでなく、自立して自分らしい生活を続けられる期間を延ばすことが重視されています。
そのためには、病気になってから治療するだけでなく、より早い段階から身体の状態を理解し、健康を維持するための行動を続けることが大切です。
ロンジェビティの視点からは、食事、運動、睡眠、ストレス管理、禁煙、社会的なつながりなど、日常生活の積み重ねが重要になります。
さらに、筋力や身体機能、代謝、認知機能などを定期的に把握し、自分の身体の変化に気づくことも、将来の健康を考えるうえで役立ちます。
ただし、健康面の準備だけで長寿社会に対応できるわけではありません。健康状態が変化したときに、どこで暮らすのか、誰に相談できるのか、必要な支援をどのように受けるのかという生活面の準備も必要です。
健康寿命を延ばす取り組みと、長い人生を支える生活設計を、別々のものとして考えないことが大切です。
介護を「必要になってから考える」から「早い段階で話し合う」へ
今回の調査で最も低かった介護の43点は、日本にとっても重要な示唆を与えてくれます。
介護は、実際に必要になってから考え始めることが多いテーマです。しかし、突然の病気や転倒などによって、本人や家族の生活が大きく変わることもあります。
介護が必要になった場合に、どこで暮らしたいのか。家族にどの程度の負担をかけたくないのか。自宅で生活を続けるためには、どのような支援が必要なのか。こうしたことを元気なうちから話し合っておくことは、本人と家族の双方にとって大切です。
また、介護を家族だけの問題として捉えるのではなく、訪問看護、訪問介護、地域包括支援センター、医療機関、自治体など、地域の支援体制を知っておくことも重要です。
長寿への備えとは、介護が必要にならないようにすることだけではありません。必要になったときにも、自分らしい生活をできるだけ続けられるように準備しておくことなのです。
人とのつながりも、長寿を支える大切な基盤
もう一つ、日本で考えていきたいのが、社会的なつながりです。
長寿化によって一人で過ごす時間が長くなる可能性がある一方、退職や家族構成の変化、友人との別れなどによって、人との関係が変化することもあります。
社会的な孤立は、生活の満足度だけでなく、健康にも関係することが研究で示されています。
地域活動や趣味、仕事、学びの場などを通じて、人と関わり続けられる環境を持つことは、長い人生を豊かにするうえで重要です。
ここでいうつながりは、単に知り合いの数を増やすことではありません。困ったときに相談できる人がいること、自分の存在を認めてくれる場所があること、誰かの役に立てる機会があることなど、生活の中で意味のある関係を持ち続けることです。
長寿社会では、医療や介護の仕組みだけでなく、人が孤立せずに暮らせる地域やコミュニティをつくることも重要な課題になるでしょう。
7.ロンジェビティを「特別な人の取り組み」から「社会のあたりまえ」へ
──自分の身体を知ることから、人生全体を考える
今回のLPIは、長寿への準備を数値化することで、人々に自分の将来を考えるきっかけを提供しています。
この考え方は、ロンジェビティを社会に広げていくうえでも参考になります。
ロンジェビティという言葉は、まだ日本では専門的な医療や高額な検査、美容、最先端のバイオテクノロジーと結びつけて理解されることがあります。
しかし、本来のロンジェビティは、単に若さを保つことや寿命を延ばすことだけを意味するものではありません。
自分の身体で何が起きているのかを理解し、健康を守るために何ができるのかを考え、人生のさまざまな段階で自分らしく生きるための準備をすること。その積み重ねも、ロンジェビティの大切な一部です。
健康診断の結果を見直すこと、筋力を維持すること、食生活を整えること、睡眠を大切にすること。さらに、将来の住まいや介護について家族と話し合い、地域とのつながりを育てることも、長寿への備えになります。
特別な治療やサービスを利用することだけがロンジェビティではありません。日々の暮らしの中で、自分の身体と人生を大切にすることから始められるのです。
企業や医療機関にも、長寿社会を支える役割がある
ジョン・ハンコック社の取り組みから見えてくるのは、長寿化が進むことで、企業の役割も変化しているということです。
これまで企業は、商品やサービスを提供することを中心に事業を展開してきました。しかし、顧客が長い人生を送るようになると、その人生をどのように支えるかという視点が重要になります。
金融機関は長期的な資産形成を支援し、保険会社は健康や介護を含めた生活設計を支援する。医療機関は病気の治療だけでなく、健康を維持するための情報や予防の機会を提供する。企業は、従業員が年齢を重ねても健康に働き続けられる環境を整える。
こうした取り組みが広がれば、ロンジェビティは医療業界だけのテーマではなく、社会全体で取り組むテーマになっていくでしょう。
もちろん、長寿への関心を利用して、不必要な検査や高額なサービスを販売するようなことがあってはなりません。
科学的な根拠、費用対効果、個人情報の保護、公平な利用機会などを大切にしながら、持続可能なサービスを育てていく必要があります。
まとめ:長寿への準備は、未来の自分と社会への投資
今回のジョン・ハンコック社とMITエイジラボによる調査では、アメリカ人の長寿準備度は100点満点中60点で、前年から変化がありませんでした。
地域社会や社会的なつながりは比較的高い一方、介護への準備は43点と最も低く、長寿への意識が高まっても、実際の行動や支援体制が十分に追いついていないことが示されています。
そして、ジョー・コフリン博士の「どこに住むのか」「誰と暮らすのか」「誰が自分の面倒を見てくれるのか」という問いは、長寿社会の本質を捉えているように思います。
長い人生を豊かに過ごすために必要なのは、十分な貯蓄や健康管理だけではありません。自分の身体を理解し、健康を維持すること。安心して暮らせる住まいを考えること。困ったときに頼れる人や支援体制を持つこと。そして、社会とのつながりを保ちながら、自分らしい役割や生きがいを見つけていくことです。
長寿準備度を数値化する取り組みは、こうした課題を見える形にし、一人ひとりが未来について考えるきっかけをつくります。
日本でも、人生100年時代という言葉を掲げるだけでなく、長く生きることを前提に、健康、医療、介護、住まい、働き方、地域社会のあり方を見直していく必要があります。
ロンジェビティは、特別な人だけが取り組むものではありません。年齢を重ねても自分らしく生きるために、誰もが自分の身体と人生に向き合い、少しずつ準備を進めていくことです。
そのためには、個人の努力だけでなく、医療機関や企業、地域、行政が連携し、誰もが健康や生活について学び、必要な支援を受けられる環境をつくることが大切です。
長寿への準備とは、老後の不安に備えるだけではなく、これからの人生にどのような可能性を育てていくかを考えること。
一人ひとりが自分らしく生きられる時間を増やし、その可能性を社会全体で支えていくことこそ、これからのロンジェビティ社会が目指す姿ではないでしょうか。
【編集部からのお知らせ:事業化のご案内】
「こもれび抗老化ステーション」では、専門医やスペシャリスト監修のもと、科学的根拠に基づいた抗老化製品・サービスの開発を支援する「ロンジェビティ・共創ラボ」を運営しています。既存事業へのロンジェビティ視点の導入や新規事業化のご相談は、下記よりお気軽にお問い合わせください。
参考文献・関連情報
1.John Hancock and MIT AgeLab:2026年版 Longevity Preparedness Index 発表(2026年10月27日)
調査の公式発表。調査結果、8つの評価領域、調査方法、サービス展開について確認できます。
2.Longevity Technology:Americans score 60 out of 100 on longevity prep(2026年11月2日)
今回の調査結果を紹介したニュース記事。介護への備えが最も低いことや、金融専門家との連携経験によるスコアの違いなどを解説しています。
https://longevity.technology/news/americans-score-60-out-of-100-on-longevity-prep
3.John Hancock:Longevity Preparedness Index
ジョン・ハンコック社による長寿準備度指数の紹介ページ。個人が長寿への準備状況を振り返るための情報や評価ツールにアクセスできます。
https://www.johnhancock.com/individual/insights/longevity-preparedness-index
4.MIT AgeLab
マサチューセッツ工科大学の研究機関。高齢化や長寿社会における生活、技術、社会システムなどを研究しています。
5.John Hancock
ジョン・ハンコック社の公式サイト。生命保険、資産運用、退職後の生活設計、Vitality Programなどの事業内容を確認できます。
この記事を書いた人
桃井 里奈(編集長)
1978年生まれ、京都府出身。看護師として京都市内の病院に8年間勤務後、上京。東京都内の総合病院にてICU(集中治療室)、NICU(新生児集中治療室)、手術室での高度急性期医療に従事。看護師プリセプターとして後進の育成にも尽力する。
臨床現場での経験から、既存の制度では対応困難なニーズを痛感し、24時間対応保育所や自費訪問看護ステーションを自ら立ち上げた起業家としての側面も持つ。
現在は、訪問看護の発展を支援する総合Webメディア「いろいろナース」および、抗老化とロンジェビティ(長寿科学)の実践をガイドする「こもれび抗老化ステーション」の編集長を務める。医療現場のリアルな知見と最新のロンジェビティ理論を融合させ、日本人の健康寿命延伸に寄与する情報発信を行っている。
【医学監修】西嶌 暁生
(銀座こもれびクリニック 院長 / 形成外科専門医・医学博士・MBA)
形成外科専門医および医学博士として臨床・先端医療に携わるとともに、MBAの視点を活かした持続可能な医療・ヘルスケアの領域に取り組む。「単に長く生きるだけでなく、より良く生きる(ウェルビーイング)」を医療理念に掲げ、銀座こもれびクリニックにて患者一人ひとりのQOL向上と健康寿命延伸を実践。本メディア「こもれび抗老化ステーション」では、医療・長寿科学の視点から専門的な知見の提供や記事の医学的アドバイスを行っている。

