東京大学発ベンチャーがXPRIZEファイナリストに!──身近な「パセリ」が拓く次世代エクソソーム革命

東京大学発ベンチャーがXPRIZEファイナリストに!──身近な「パセリ」が拓く次世代エクソソーム革命

世界最大の長寿コンペ「XPRIZE Healthspan」と日本発ベンチャーの躍進

海外の抗老化・ロンジェビティ(長寿科学)に関する最新ニュースや、市場・投資の潮流をお届けする「ロンジェビティニュース」。

長寿科学(ロンジェビティ)の研究と投資が世界規模で過熱する中、医療の恩恵を一部の富裕層だけでなく、いかに地球上の多くの人々に安全かつ安価に届けられるかという「実用性と拡張性(スケーラビリティ)」が最大の焦点となっています。

2026年10月2日、海外の長寿科学専門メディア『longevity.technology』は、世界最大級の国際科学コンペティション「XPRIZE Healthspan」の最終選考(世界トップ10)に、東京大学発のバイオテック・スタートアップであるTIME TRAVELER(タイムトラベラー)株式会社が選出されたことを報じました。

賞金総額1億100万ドル(約150億円超)が投じられる「XPRIZE Healthspan」は、50歳から90歳の人々を対象に、認知機能・筋肉機能・免疫機能を最低10年以上回復・延伸させる画期的な治療法や技術を競う7年間のグローバルコンテストです。

米国のXPRIZE財団が主催し、サウジアラビアの非営利団体Hevolution Foundationが巨額の資金提供を行っています。

世界中から集まった強力な研究チームの中から最終候補に選ばれた同社のアプローチは、身近な野菜である「パセリ」に含まれる微小なカプセル「エクソソーム(細胞外小胞)」を活用するという、極めてユニークかつ革新的なものでした。

本稿では、このニュースの科学的背景や臨床データ、植物由来エクソソームが長寿医療に与えるインパクト、そして日本のアカデミア技術が世界の抗老化ビジネスに果たす役割について詳しく解説します。

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なぜ「パセリ」なのか?──ヒト・動物由来エクソソームの壁と植物由来の可能性

細胞間での情報伝達を担う微小な泡状の構造体「エクソソーム」は、美容や再生医療、抗老化アプローチの核心技術として近年大きな注目を集めています。しかし、従来のヒト由来や動物組織由来のエクソソームには、社会実装に向けた大きなハードルが立ちはだかっていました。

ヒト・動物由来エクソソームが抱える供給と安全性の課題

ヒトや動物の細胞から抽出されるエクソソームは、細胞培養に莫大なコストがかかる上、組織採取に伴う感染症リスクや、未知の生物学的成分に対する厳しい規制基準が存在します。日本やアジア全域の美容市場で高い人気を集める一方で、人間全体の健康寿命を延伸させる目的で安価かつ大規模に臨床応用するには、サプライチェーンの限界が指摘されていました。

パンデミック下のアイデアから始まった「植物由来エクソソーム」のスクリーニング

TIME TRAVELER社の創業者である秋山理恵子氏は、コロナ禍において食品業界で植物由来の代替品へのシフトが進んでいることに着目し、この考え方を長寿医療へ応用することを思い立ちました。

同社の共同CEOであり東京大学プロジェクト助教の林智篤氏らの研究チームは、日本に生育する食用植物や藻類など140種以上をスクリーニングし、ヒトのエクソソームと同様の生物学的働きをする植物由来の微小小胞を探し出しました。

その広範な実験の末、最も高い抗炎症効果と生物学的活性を示したのが、スーパーの野菜室にも並ぶ身近なハーブ「パセリ」だったのです。

筋力の維持と睡眠改善を示す前臨床・初期臨床データ

パセリ由来エクソソームの効果は、動物実験および人間を対象とした初期試験で着実なデータを示しています。

マウスを用いた実験では、飲料水にパセリ由来エクソソームを混ぜて投与した結果、老化に深く関与する全身の慢性炎症マーカーが顕著に低下しました。

さらに、ケージの網にしがみつく握力・筋持久力のテストにおいて、投与されたマウスは同年齢の対照群と比較して筋力を強く維持することが確認されました。

また、40名の人間を対象とした小規模なサプリメント服用試験においても、血液中の炎症マーカー低下に加え、「睡眠の質が向上した」「日中の活力が戻った」といった主観的・客観的な改善結果が得られています。

これらの確かなエビデンスが高く評価され、同社はXPRIZEの次なる大型臨床試験へとコマを進めることとなりました。

なぜ「植物由来エクソソーム」が抗老化産業のゲームチェンジャーとなり得るのか

TIME TRAVELER社のアプローチが海外の長寿科学コミュニティや投資家から大きな関心を集めている理由は、単にパセリという素材の意外性だけではありません。長寿医療における最もコストのかかる構造的課題に対する「解決策」を提示している点にあります。

1. 厳しい医療規制を回避できる高い安全性

人間が何千年も前から日常的に食してきたパセリなどの食用植物は、圧倒的な「食経験(長期の安全性の実績)」を有しています。動物由来の組織や高度に遺伝子操作されたバイオ素材と異なり、毒性や感染症リスクが極めて低く、各国の薬事規制上のハードルを大幅に下げることが可能です。

2. 低コストかつ無制限な大量生産(優れた拡張性)

動物細胞の高度な培養設備や複雑な動物組織の調達網を必要としないため、農業インフラを活用して原料を大量に栽培・収穫できます。独自の抽出技術を用いることで、高品質で均一なエクソソームを低コストで大量生産する体制を容易に構築できます。

3. 富裕層向けから「誰もが享受できる長寿医療」への普及

従来の最先端再生医療や幹細胞治療は、1回あたり数百万円から数千万円かかることも珍しくなく、ごく一部の富裕層のみが享受できるものでした。

パセリ由来エクソソームのようなローテクかつ高機能なアプローチは、何百万人もの一般消費者が日常的に利用できる「低価格で確実な抗老化ソリューション」を世界中に普及させる道を開きます。

独自考察——日本のアカデミア発技術とロンジェビティ・ビジネスの未来

今回のトピックは、日本の大学発ベンチャーが持つ基礎研究の深さと、グローバルな長寿マーケットへの参入戦略を示す象徴的な事例と言えます。当メディア独自の視点から、その構図と強みを紐解きます。

同じ東京大学から生まれた「2つの対照的なアプローチ」

非常に興味深いことに、今回のXPRIZE Healthspanの最終選考には、同じ東京大学から全く異なるアプローチを採るもう一つの研究チームも進出しています。

そのチームは、幹細胞由来の「高度なスーパーエクソソーム」を用いて老化細胞を直接ターゲットにして除去・修復する、極めてハイスペックな医療系アプローチを展開しています(※当メディアでも2026年9月に東北大学との共同研究として取り上げました。)

※参考記事:【XPRIZE受賞】東北大学が挑む健康寿命「15年延長」──スーパーエクソソームが拓く抗老化の新たなパラダイムシフト

一方、TIME TRAVELER社は、身近なパセリという植物の力を抽出して日常的な予防ケアに落とし込む、親しみやすく拡散性の高いアプローチを選択しました。同じ最先端の細胞科学という土壌から、「超ハイテクな先進医療」と「ローテクで広範なヘルスケア」という対照的な2つのイノベーションが同時に生まれ、世界最高峰の舞台で評価されている構図は非常に示唆に富んでいます。

「食」と「精密科学」を融合させる日本企業の強み

日本は伝統的に、植物成分の抽出技術、発酵プロセス、機能性表示食品などの分野で世界トップクラスの知見とノウハウを蓄積してきました。

以前当メディアで解説した「5-ALA(5-アミノレブリン酸)」のように、日本伝統の発酵技術を用いて圧倒的な低コスト・大量生産を実現した事例と同様、今回の「パセリから精密な抗炎症・筋肉保護効果を引き出す」アプローチも、日本の食文化とバイオ技術の強みが融合した理想的なビジネスモデルと言えます。

※参考記事:5-ALA(ファイブアラ)とは何か ── 日本の発酵技術と熱意が形にした「命のアミノ酸」が拓くロンジェビティの未来

まとめ:日常の食材から始まる「誰もが健康に長生きできる社会」への一歩

TIME TRAVELER社による「パセリ由来エクソソーム」の挑戦は、奇抜なニュースに見えて、実は「実用的で安全な抗老化ソリューションをいかに世界へ広めるか」という、ロンジェビティ研究の本質的な問いに対する非常に合理的な回答です。

世界中が注目する1億100万ドルの賞金コンペ「XPRIZE Healthspan」の次なる臨床試験を通じて、筋肉機能や認知機能、歩行能力に対する臨床データが蓄積されれば、植物バイオテクノロジーの評価はさらに高まるでしょう。

特別な先進医療に頼るだけでなく、科学的に裏付けられた身近な植物の力を日常に取り入れることで、健康寿命を延伸できる未来がすぐそこまで来ています。日本発のイノベーションが世界をどう変えていくのか、今後の展開から目が離せません。

今回取り上げたニュースの補足情報

TIME TRAVELER株式会社について

TIME TRAVELER(タイムトラベラー)株式会社は、東京大学の長年の研究成果を基盤として2024年1月に設立された、東大発のバイオテック・スタートアップです。

  • 創業と背景: 東京大学定量生命科学研究所の秋山徹特任教授らの20年以上にわたるがん・老化遺伝子研究を基に設立。共同CEOとして東大プロジェクト助教の林智篤氏らが参画しています。
  • 事業内容: 植物・藻類・微生物由来のエクソソームを活用した機能性サプリメント(例:「exofull FUJI」など)や化粧品原料の開発・提供のほか、遺伝子を標的とした抗老化薬・がん治療薬の研究開発を行っています。
  • 資金調達と評価: 累計資金調達額は約2億8,600万円に達しており、「XPRIZE Healthspan」で世界トップ10に選出されるなど、内外から高い注目を集めています。

XPRIZE Healthspan(エックスプライズ・ヘルススパン)について

XPRIZE Healthspanは、人間の健康寿命を最低10年(目標20年)延伸する革新的な技術や治療法の開発を競う、世界最大級の国際科学コンペティションです。

  • 賞金規模と主催: 賞金総額1億米ドル(約160億円超)。米国の非営利組織XPRIZE財団が主催し、サウジアラビアの長寿支援団体Hevolution Foundationが主要な資金提供を行っています。
  • 審査基準: 50歳〜90歳の成人を対象とし、1年以内の介入によって認知機能、筋肉機能、免疫機能を10年以上若い状態へ回復・維持できることを臨床データで証明することが求められます。
  • 開催期間: 2023年から2030年にかけて実施。2026年8月〜10月に世界トップ10のファイナリストが決定し、最終決定に向けて大規模な人間での臨床試験フェーズへと移行しています。

参照元

longevity.technology:Japan’s parsley-powered bet on aging among XPRIZE finalists
https://longevity.technology/news/japans-parsley-powered-bet-on-aging-among-xprize-finalists/

TIME TRAVELER株式会社:TIME TRAVELER、「XPRIZE Healthspan」で世界TOP10に選出、「Milestone 2 Award」を受賞しファイナリストへ
https://www.ttraveler.jp/news/287

time.com:/Which Anti-Aging Ideas Actually Work? XPrize Healthspan Is Testing The Best Longevity Innovations
https://time.com/article/2026/08/21/xprize-healthspan-best-longevity-ideas-top-10/

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