「栄養の治療効果」が老化医療の鍵となる──断食模倣食(FMD)が示す、GLP-1時代の代謝医療とロンジェビティ

食事を変えることは、未来の健康を変えることにつながる?
年齢を重ねても健康で、自分らしい毎日を過ごしたい。
そう考えたとき、私たちが日々口にする食事は、どれほど大きな意味を持つのでしょうか。
健康のために食事や運動が大切であることは、誰もが知っています。しかし、食事は単に栄養を補給するだけではなく、身体の代謝や細胞の働きにも影響を与えています。
もし、栄養の摂り方を科学的に工夫することで、身体が本来持っている機能に働きかけ、慢性疾患の予防や改善を支えられるとしたら、これからの医療はどのように変わっていくのでしょうか。
実は今、栄養を単なる生活習慣のアドバイスではなく、医療の一環として活用しようとする動きが広がり始めています。
2026年10月、米国のL-Nutra Health社は、断食による身体の反応を食事によって引き出す「断食模倣食(FMD)」を活用した代謝健康プログラムを、英国のクリニック向けに開始しました。
この取り組みは、2型糖尿病や肥満などの代謝性疾患への新たなアプローチであると同時に、GLP-1受容体作動薬の普及によって変化する医療のあり方や、栄養が持つ治療の可能性を考えるうえでも興味深いものです。
今回は、このニュースを手がかりに、断食模倣食の科学的背景と、栄養・医薬品・生活習慣を組み合わせたこれからの代謝医療、そしてロンジェビティの可能性について考えていきます。
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L-Nutra Healthが英国で開始した臨床医主導の代謝健康プログラム
今回、英国で提供が始まったのは、L-Nutra Healthが開発した代謝健康プログラムです。
L-Nutraは、南カリフォルニア大学(USC)レナード・デイビス老年学大学院で長年にわたり老化や栄養、断食の研究を行ってきたヴァルター・ロンゴ博士の研究を基盤とする企業です。同社は断食模倣食を中心とした栄養介入を展開しており、一般消費者向けのブランドProLon®と、医療機関向けのL-Nutra Healthを運営しています。
今回の英国向けプログラムは、2型糖尿病や肥満などの代謝性疾患を持つ患者を対象としています。
特徴的なのは、断食模倣食のキットを提供するだけではなく、医療機関による個別の栄養相談、血液検査などの検査結果の確認、継続的なモニタリング、必要に応じた服薬管理を組み合わせていることです。
提携する医療機関は、医師や栄養専門家、検査体制を提供し、L-Nutra HealthはFMDキットや医療従事者向けの研修、患者向け資料などを提供します。プログラムへの参加が適切かどうかは医療機関の医師が判断し、参加中も患者の状態を確認しながらケアを行います。
英国で最初に導入したのは、ロンドンを拠点とするHealthMatters Groupです。同グループは、栄養、心理学、医学、行動変容という4つの専門領域を組み合わせたケアモデルを20年にわたって構築してきました。今回のプログラムでも、栄養療法士のスー・キャンプ氏が実施を主導するとされています。
ここで注目したいのは、食事療法を患者個人の努力に委ねるのではなく、医療機関が専門的に支援する仕組みをつくっていることです。
食事や運動が健康に重要であることは、多くの人が理解しています。しかし、実際に自分の身体の状態を把握し、適切な方法を選び、継続していくことは簡単ではありません。
特に糖尿病や肥満などの慢性疾患では、食事の変更が血糖値や服薬状況に影響する可能性もあるため、医療的な管理が欠かせません。
今回のプログラムは、栄養介入を医療の中で実施し、その結果を検査によって確認しながら継続するという、体系的なアプローチを目指しているのです。
断食模倣食(FMD)とは何か?断食による身体の反応を栄養で引き出す
今回のプログラムの中核となる断食模倣食(FMD)は、文字どおり、身体に断食に近い生理的反応を引き起こすことを目指して設計された食事療法です。
一般的な断食では、一定期間、食事を摂らない、あるいは摂取量を大幅に制限します。それによって身体に入ってくるエネルギーや栄養素が減少し、代謝に関わるホルモンや細胞内のシグナル伝達に変化が生じます。
身体は、食事から十分なエネルギーを得られない状況に対応するため、蓄積されたエネルギーを利用する方向へと代謝を切り替えていきます。また、栄養状態の変化は、インスリンやIGF-1、mTORなど、成長やエネルギー代謝に関わるシグナルにも影響を与えます。
FMDは、こうした断食時に見られる生理的な反応を、完全な絶食を行わずに引き出すことを目指したものです。
L-NutraのFMDは、植物性食品を中心に、エネルギー量やタンパク質、糖質、脂質などの構成を一定の設計に基づいて調整した食事プログラムです。

一定期間、通常の食事とは異なる栄養状態をつくり、その後、通常の食事に戻すという周期的な方法が採用されています。
重要なのは、単純に食べる量を減らすことを目的としているわけではないという点です。
栄養素の量や組み合わせ、摂取する期間などを設計することで、身体がどのような代謝反応を示すかを考慮しているのです。
栄養状態は、細胞の働きにも影響を与える
ロンジェビティの研究において、栄養は単に身体を動かすためのエネルギー源ではありません。細胞の成長、修復、ストレス応答、炎症、代謝などに関わる重要な情報としても機能しています。
例えば、インスリンやIGF-1、mTORなどのシグナルは、栄養状態やエネルギーの利用状況に応じて変化します。これらは細胞の成長やタンパク質合成、代謝調節などに関わる一方、長期的な栄養過多や代謝異常との関連も研究されています。
※参考記事:成長しないことが長寿につながる?──成長ホルモンとIGF-1が明かすSuperAgersの秘密
※参考記事:【医師監修】ラパマイシンとは?抗老化・長寿効果と最新研究を解説(イースター島発見のmTOR阻害薬)
また、AMPKは細胞内のエネルギー状態を感知する重要な分子であり、エネルギーが不足した状況などで活性化し、エネルギー産生や利用を調整します。
オートファジーも、栄養状態と密接に関係する細胞内の仕組みです。細胞内の不要になったタンパク質や損傷した細胞小器官などを分解し、再利用することで、細胞内の恒常性を維持する役割を担っています。
※参考記事:40代・50代の細胞をリセット!──オートファジーを起動するカロリー制限の抗老化効果と正しい実践法
断食やカロリー制限に関する研究では、こうした栄養感知経路や細胞のストレス応答、オートファジーなどが注目されてきました。
ただし、FMDを実施すれば、これらすべての仕組みが人間の身体で一律に活性化し、老化が抑制されると証明されているわけではありません。動物実験や基礎研究で得られた知見と、人間を対象とした臨床研究で確認された効果は区別して理解する必要があります。
それでも、食事の内容や摂取方法を通じて、身体の栄養感知システムや代謝に働きかけるという考え方は、ロンジェビティ研究における重要なテーマの一つです。
2型糖尿病を対象とした臨床試験で何が示されたのか
今回の英国でのプログラム開始にあたり、L-Nutra Healthが根拠として紹介している研究の一つが、オランダのライデン大学医療センターなどによって実施され、2024年に医学誌『Diabetologia』に掲載された無作為化比較試験です。
この研究では、2型糖尿病を持つ成人100人を対象に、通常の治療に月1回の5日間の断食模倣食プログラムを追加したグループと、通常の治療を継続したグループを比較し、12か月間にわたって代謝状態などを評価しました。
対象者は18~75歳で、BMIが27以上の人です。また、血糖降下薬については、メトホルミンのみを使用している人、あるいは食事療法を中心に血糖管理を行っている人が対象となりました。
研究の結果、FMDを追加したグループでは、対照群と比較して、血糖コントロールの指標であるHbA1cの改善が認められました。さらに、血糖降下薬の使用量を示す指標も低下し、体重についても対照群より大きな減少が確認されました。
12か月後の体重変化における調整済みの群間差は約3.6kgで、FMDを実施したグループでは、血糖降下薬の使用量を減らしながらHbA1cも改善する傾向が示されました。
また、血糖コントロールと薬剤使用量を組み合わせた評価では、FMDグループの53%で血糖管理が改善したのに対し、対照群では8%でした。
この結果は、食事による介入を通常の医療に組み込むことで、2型糖尿病の管理に新たな選択肢を提供できる可能性を示しています。
ただし、すべての糖尿病患者に当てはまるわけではない
一方で、この研究結果を過度に一般化しないことも重要です。
対象者は100人であり、使用していた血糖降下薬にも条件がありました。インスリンなどを使用している患者や、さまざまな合併症を持つ患者に同じ結果が得られるとは限りません。
また、今回の研究は12か月間のものであり、FMDを長期間継続した場合の効果や、プログラム終了後にどの程度効果が維持されるのかについては、さらなる研究が必要です。
研究自体は通常の医療にFMDを追加する形で実施されており、医師による定期的な評価や薬剤調整が行われています。したがって、FMDを自己判断で実施すれば同じ効果が得られるという意味ではありません。
特に糖尿病治療薬を使用している人が食事量を大きく変える場合、低血糖などのリスクや薬剤調整が必要になる可能性があります。断食や極端な食事制限を自己判断で始めるのではなく、医療従事者に相談することが大切です。
今回の研究で評価したいのは、FMDが万能な治療法であるということではありません。栄養介入を科学的に設計し、医療の管理下で実施することによって、慢性疾患の治療に活用できる可能性が示された点です。
医薬品だけではなく、栄養の治療効果をどう活用するか
今回のニュースで、特に印象的なのが、L-Nutra Healthの最高医療責任者ウィリアム・シュー博士のコメントです。
博士は、医薬品が重要な役割を果たしてきた一方で、栄養が持つ治療効果は過小評価されてきたと指摘しています。そして、今後10年間で慢性疾患の予防と治療の方法は大きく変化し、医療栄養は一般的な生活習慣のアドバイスから、臨床的に検証された介入へと移行していくとの見通しを示しています。
これは、今後の医療の方向性を考えるうえで、非常に重要な視点だと思います。
これまで栄養や食事は、医療の中では主に生活指導の一環として扱われてきました。
もちろん、糖尿病や高血圧、脂質異常症などにおいて食事療法は重要な役割を果たしてきましたが、薬物療法と比較すると、栄養介入そのものを独立した臨床的な治療手段として評価し、体系的に提供する仕組みは、まだ十分に普及しているとはいえません。
しかし、栄養は身体の代謝やホルモン、免疫、腸内環境、細胞のエネルギー産生など、さまざまな生理機能に関係しています。
例えば、食事の内容やエネルギー摂取量は、血糖値やインスリン感受性に影響します。タンパク質の摂取は筋肉の維持に関係し、食物繊維や発酵食品などは腸内環境に関わります。栄養状態は、単一の臓器だけでなく、身体全体の機能に影響を与えているのです。
つまり、栄養を整えることは、単に体重や血糖値を管理することにとどまりません。身体が本来持っている代謝調節や恒常性維持の仕組みを支えることにもつながります。
もちろん、栄養だけですべての疾患を予防・治療できるわけではありません。薬物療法や外科的治療が必要な病気もありますし、栄養介入が有効な範囲も疾患や患者の状態によって異なります。
大切なのは、医薬品か栄養かという二者択一ではなく、それぞれの役割を科学的に理解し、患者の状態に応じて組み合わせることです。
医薬品によって特定の生理機能に働きかけるだけでなく、栄養や運動、睡眠、ストレス管理などを通じて、身体全体の代謝環境を整えていく。こうした統合的な医療が、これからさらに重要になっていくのではないでしょうか。
GLP-1受容体作動薬の普及が変える代謝医療
今回のプログラムが英国で開始された背景には、GLP-1受容体作動薬の世界的な普及があります。
GLP-1受容体作動薬は、もともと2型糖尿病の治療薬として開発されてきた薬剤ですが、食欲や胃の排出、血糖調節などに作用し、体重減少にも大きな効果を示すことから、肥満症の治療においても注目されています。
セマグルチドやチルゼパチドなどの薬剤は、肥満や代謝疾患に対する治療の可能性を大きく広げました。これまで食事や運動だけでは十分な改善が難しかった人にとって、薬物療法という新たな選択肢が加わったことは、重要な進歩です。
一方で、GLP-1受容体作動薬の普及によって、これまで以上に考える必要がある課題も見えてきました。
参考記事カテゴリー:GLP-1と抗老化・ロンジェビティ
体重が減ることと、身体の健康が改善することは同じではない
まず考えたいのが、体重減少に伴う除脂肪量の変化です。
GLP-1受容体作動薬などによる大幅な体重減少では、脂肪だけでなく除脂肪量も減少することがあります。除脂肪量には筋肉だけでなく、水分や骨なども含まれるため、除脂肪量の減少をそのまま筋肉量の減少と同一視することはできません。しかし、減量に伴って筋肉量が減少する可能性があることは、重要な課題です。
筋肉は、身体を動かすためだけの組織ではありません。糖を取り込む重要な組織であり、エネルギー代謝や身体機能、転倒予防、加齢に伴うフレイルの予防にも関わっています。
そのため、体重が減ったという結果だけを見るのではなく、脂肪量と筋肉量がどのように変化したのか、筋力や身体機能が維持されているのかを確認する必要があります。
減量を目的とする治療であっても、筋肉を維持するための十分な栄養摂取や、適切なレジスタンス運動などを組み合わせることが重要になります。
薬を中止した後の体重再増加という課題
もう一つの課題は、薬剤を中止した後の体重管理です。
GLP-1受容体作動薬は、食欲やエネルギー摂取に関わる生理機能に作用します。そのため、薬剤を中止すると、食欲や体重を調節する身体の仕組みが再び変化し、体重が戻るケースが少なくありません。
実際に、セマグルチドを用いたSTEP 1試験の延長研究や、チルゼパチドを用いたSURMOUNT-4試験では、治療を中止した後に体重が再増加することが報告されています。
これは、薬剤によって得られた体重減少が、必ずしも薬剤を中止した後も維持されるわけではないことを示しています。
肥満は、単なる意志の弱さや生活習慣だけで説明できるものではなく、食欲、ホルモン、神経系、エネルギー代謝などが複雑に関係する慢性疾患です。
したがって、薬剤によって体重が減少した後も、その状態を維持するための継続的な支援が必要になります。
もちろん、GLP-1受容体作動薬を使用するすべての人が、同じように体重を再増加させるわけではありません。また、薬剤を継続するか中止するかは、疾患の状態や治療目標、副作用、費用などを踏まえて医師と相談しながら判断する必要があります。
重要なのは、薬剤の使用中から、食事、運動、筋肉量、睡眠、日常の活動などを含めた長期的な健康管理を考えておくことです。
薬を使うだけでなく、生活習慣そのものを変える医療へ
HealthMatters Groupの創設者兼CEOであるジェームズ・ランパー氏は、GLP-1受容体作動薬が英国の減量市場を大きく変えた一方で、薬剤を中心とした体系的なケアを受けていない人が多く、根本的な生活習慣が変わらないままになっていることを課題として挙げています。
同氏は、栄養、心理学、医療サポートを統合してきた経験を踏まえ、習慣と意識を変えることが、長期的な健康と幸福の向上につながると述べています。
このコメントは、今回のニュースの中でも特に重要な部分だと感じます。
医薬品によって血糖値や体重などの数値を改善することは、治療における大切な成果です。しかし、数値が改善したことと、その人の生活が健康的に変わったことは、必ずしも同じではありません。
例えば、薬剤によって食欲が抑えられ、体重が減少したとしても、食事の内容や栄養バランスについて理解が深まっていなければ、薬剤を中止した後の生活に課題が残る可能性があります。筋肉を維持するための運動習慣が身についていなければ、体重が減少しても身体機能の維持につながらないかもしれません。
また、食事や運動を継続するためには、本人の意欲だけでなく、心理的な支援や日常生活の環境づくりも重要です。
つまり、医療の役割は、薬剤を処方して数値を改善することだけではありません。患者自身が自分の身体の状態を理解し、健康を維持するための習慣を身につけ、それを継続できるように支援することも含まれるのです。
今回のL-Nutra Healthのプログラムが、栄養指導や検査、医師によるモニタリングを組み合わせているのは、こうした考え方を反映しているといえるでしょう。
栄養介入を単発の食事療法として提供するのではなく、医療機関が患者と継続的に関わり、身体の変化を確認しながら生活習慣の改善につなげていく。これは、今後の慢性疾患管理において重要な方向性の一つになると考えられます。
ロンジェビティ研究から生まれた知見が、日常の医療へ
今回のニュースでもう一つ興味深いのは、老化研究の分野で進められてきた研究が、糖尿病や肥満など、現在の医療現場で広く見られる疾患への介入として展開されていることです。
ヴァルター・ロンゴ博士は、南カリフォルニア大学のレナード・デイビス老年学大学院で、断食やカロリー制限、栄養と老化の関係を長年研究してきました。
断食やカロリー制限の研究は、単に体重を減らすための研究ではありません。栄養状態の変化が、代謝や細胞のストレス応答、炎症、細胞内の修復機構などにどのような影響を与えるのかを明らかにしようとするものです。
こうした研究は、老化に関わる生物学的な仕組みを理解し、健康寿命を延ばすための介入方法を考えるうえでも重要です。
今回のプログラムは、そうした研究成果を、2型糖尿病や肥満などの代謝性疾患を持つ人々の診療に応用しようとする試みと捉えることができます。
これは、ロンジェビティ研究が一部の研究者や専門施設だけのものではなく、一般的な医療や日常生活に取り入れられていく可能性を示す動きでもあります。
老化を治療するのではなく、老化に関わる身体の機能を整える
ロンジェビティ医療を考える際に重要なのは、老化を単に年齢の問題として捉えないことです。
私たちの身体では、加齢とともに代謝機能や免疫機能、筋肉量、細胞の修復能力など、さまざまな機能が変化していきます。こうした変化は、糖尿病や心血管疾患、認知機能の低下、フレイルなど、将来の健康状態にも関係しています。
そのため、ロンジェビティの実践では、特定の疾患が発症してから治療するだけでなく、疾患の発症や進行に関係する身体の機能を、より早い段階から理解し、整えていくことが重要になります。
代謝健康は、その代表的な領域です。
血糖値やインスリン感受性、内臓脂肪、筋肉量、脂質代謝などは、日々の食事や運動、睡眠などの影響を受けます。そして、これらの状態を長期的に管理することは、将来の慢性疾患リスクや身体機能の維持を考えるうえでも大切です。
もちろん、FMDを実施することが、そのまま老化速度を遅らせる、あるいは寿命を延ばすと証明されたわけではありません。しかし、栄養を通じて代謝や細胞の働きに介入し、その結果を臨床的に評価していくという方向性は、ロンジェビティ医療の考え方と深くつながっています。
これからの医療に求められるのは、科学的な栄養介入と継続的な支援
今回の英国でのプログラム開始は、栄養が医療の中で果たす役割を改めて考えるきっかけになります。
ただし、L-Nutra Healthが発表している内容には、企業自身の製品やプログラムに関する説明も含まれています。2024年の無作為化比較試験は重要な臨床的根拠ですが、英国で開始された新しいプログラムそのものについて、長期的な有効性や費用対効果がすでに確立されたわけではありません。
また、2025年の米国プログラムに関する実臨床データは学会で発表されたものとして紹介されていますが、今回のニュースだけでは研究デザインや対照群の有無、詳細な評価方法を十分に確認できません。
今後は、独立した研究や実際の診療データによって、どのような患者に適しているのか、どの程度の効果が持続するのか、安全性や費用面にどのような課題があるのかを検証していく必要があります。
それでも、今回の取り組みには、これからの医療を考えるうえで重要な示唆があります。
それは、医薬品によって症状や数値を管理するだけでなく、栄養や運動、睡眠、心理的な支援などを組み合わせ、患者の生活そのものを支える医療へと進化していく可能性です。
特に、糖尿病や肥満などの慢性疾患は、短期間の治療で終わるものではありません。長い時間をかけて身体の状態を整え、改善した状態を維持していくことが求められます。
そのためには、医療機関と患者が継続的に関わり、本人が自分の身体を理解しながら、日常生活の中で実践できる方法を見つけていくことが大切です。
医療が提供するものは、薬剤や治療技術だけではありません。人が自分の健康を理解し、より良い選択を重ねていくための知識や仕組みも、これからの医療に欠かせない要素になっていくでしょう。
まとめ:ロンジェビティを特別な治療から、日常の健康づくりへ
今回、L-Nutra Healthが英国で開始した断食模倣食を中心とする代謝健康プログラムは、栄養を医療の中で活用する新しい取り組みです。
その背景には、25年以上にわたる断食と栄養の研究があり、2型糖尿病を対象とした臨床試験では、通常の治療にFMDを追加することで、血糖コントロールや体重、血糖降下薬の使用量に改善が見られました。
一方で、GLP-1受容体作動薬の普及によって、体重を減らすことだけでなく、筋肉量や栄養状態を維持すること、薬剤を中止した後の体重管理、そして生活習慣そのものをどのように変えていくかが、これまで以上に重要になっています。
こうした課題に対して、医薬品と栄養を対立させるのではなく、科学的根拠に基づいて組み合わせ、医療機関が継続的に支援していくという考え方は、これからの慢性疾患管理において大切な方向性になるでしょう。
そして、私たちがロンジェビティという言葉から考えたいのも、まさにこの点です。
ロンジェビティは、単に寿命を延ばすことや、若さを保つための特別な治療を意味するものではありません。自分の身体がどのような仕組みで働き、年齢とともに何が変化していくのかを理解し、その時々に必要なケアを日常生活の中で実践していくことです。
食事を整えること、筋肉を維持すること、睡眠を大切にすること、身体の変化を検査で確認すること。そして、必要なときには医療の力を適切に活用すること。こうした一つひとつの積み重ねが、将来の健康を支えていきます。
ジェームズ・ランパー氏が述べた「習慣と意識を変えることが、長期的な健康と幸福の向上につながる」という考え方は、ロンジェビティを日常に身近なものにしていくうえで、とても本質的なメッセージだと思います。
科学の進歩によって、栄養や生活習慣が身体に与える影響が少しずつ明らかになり、それらを医療の中で活用する方法も広がり始めています。
これからの医療は、病気になったときに治療するだけでなく、一人ひとりが自分の身体を理解し、健康を育てていくことを支える存在へと変わっていくのかもしれません。
ロンジェビティを特別な人だけが取り組むものではなく、誰もが日常の中で実践できる健康の考え方にしていくこと。それこそが、これからの時代に求められる医療と健康づくりの姿ではないでしょうか。
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「こもれび抗老化ステーション」では、専門医やスペシャリスト監修のもと、科学的根拠に基づいた抗老化製品・サービスの開発を支援する「ロンジェビティ・共創ラボ」を運営しています。既存事業へのロンジェビティ視点の導入や新規事業化のご相談は、下記よりお気軽にお問い合わせください。
参考文献・補足情報
1. 今回のニュース
L-Nutra Health opens its metabolic health programme to UK clinics and practices
L-Nutra Healthによる英国での代謝健康プログラム開始に関する公式発表。プログラムの仕組みや提携医療機関、企業側の説明を確認できます。
Fasting-mimicking diet heads to UK clinics(2026年11月3日)
Longevity Technologyによる今回のニュースの解説記事。GLP-1受容体作動薬の普及や、断食模倣食を医療機関に導入する背景について紹介しています。
https://longevity.technology/news/fasting-mimicking-diet-heads-to-uk-clinics
2. 断食模倣食の臨床研究
van den Burg EL, Schoonakker MP, van Peet PG, et al. (2024).
ntegration of a fasting-mimicking diet programme in primary care for type 2 diabetes reduces the need for medication and improves glycaemic control: a 12-month randomised controlled trial.
Diabetologia, 67, 1245–1259.
2型糖尿病患者100人を対象に、通常の治療に月1回の5日間の断食模倣食を追加した場合の影響を12か月間評価した無作為化比較試験です。血糖コントロールや血糖降下薬の使用量、体重などに関する結果が報告されています。
https://doi.org/10.1007/s00125-024-06137-0
3. 断食模倣食と生活習慣の変化
van den Burg EL, et al. (2024).
Self-initiated lifestyle changes during a fasting-mimicking diet programme in patients with type 2 diabetes: a mixed-methods study.
BMC Primary Care.
断食模倣食プログラムに参加した2型糖尿病患者の生活習慣の変化について検討した研究です。食事介入が、参加者自身の生活習慣への意識や行動にどのように関係するかを考える際の参考になります。
https://doi.org/10.1186/s12875-024-02405-5
4. GLP-1受容体作動薬の中止後の体重変化
Wilding JPH, et al. (2022).
Weight regain and cardiometabolic effects after withdrawal of semaglutide: The STEP 1 trial extension.Diabetes, Obesity and Metabolism.
セマグルチドによる体重減少後、薬剤を中止した参加者の体重や代謝指標がどのように変化したかを追跡した研究です。薬剤による減量後の長期的な体重管理を考えるうえで重要な報告です。
https://doi.org/10.1111/dom.14725
Aronne LJ, et al. (2024).
Continued Treatment With Tirzepatide for Maintenance of Weight Reduction in Adults With Obesity: The SURMOUNT-4 Randomized Clinical Trial.
JAMA.
チルゼパチドによる減量後、治療を継続した場合とプラセボに切り替えた場合の体重変化を比較した研究です。肥満治療における継続的な管理の重要性を示しています。
https://doi.org/10.1001/jama.2023.24945
5. 断食・栄養とロンジェビティ研究
National Institute on Aging(米国国立老化研究所)
カロリー制限や断食、老化に関する研究情報を提供する米国国立老化研究所の公式サイトです。動物研究と人間を対象とした研究の違いを理解する際にも参考になります。
USC Leonard Davis School of Gerontology
ヴァルター・ロンゴ博士が所属する南カリフォルニア大学の老年学研究機関です。老化、栄養、長寿に関する研究情報を確認できます。
この記事を書いた人
桃井 里奈(編集長)
1978年生まれ、京都府出身。看護師として京都市内の病院に8年間勤務後、上京。東京都内の総合病院にてICU(集中治療室)、NICU(新生児集中治療室)、手術室での高度急性期医療に従事。看護師プリセプターとして後進の育成にも尽力する。
臨床現場での経験から、既存の制度では対応困難なニーズを痛感し、24時間対応保育所や自費訪問看護ステーションを自ら立ち上げた起業家としての側面も持つ。
現在は、訪問看護の発展を支援する総合Webメディア「いろいろナース」および、抗老化とロンジェビティ(長寿科学)の実践をガイドする「こもれび抗老化ステーション」の編集長を務める。医療現場のリアルな知見と最新のロンジェビティ理論を融合させ、日本人の健康寿命延伸に寄与する情報発信を行っている。
【医学監修】西嶌 暁生
(銀座こもれびクリニック 院長 / 形成外科専門医・医学博士・MBA)
形成外科専門医および医学博士として臨床・先端医療に携わるとともに、MBAの視点を活かした持続可能な医療・ヘルスケアの領域に取り組む。「単に長く生きるだけでなく、より良く生きる(ウェルビーイング)」を医療理念に掲げ、銀座こもれびクリニックにて患者一人ひとりのQOL向上と健康寿命延伸を実践。本メディア「こもれび抗老化ステーション」では、医療・長寿科学の視点から専門的な知見の提供や記事の医学的アドバイスを行っている。


